コーヒータイム -Learning Optimism-

本を読むということは、これまで自分のなかになかったものを取りこみ、育ててゆくこと。多読乱読、英語書や中国語書もときどき。

未来をつくるファイナンス -決断のための企業財務理論入門- (東堂馬人著)

 

 

ファイナンスの本を読んだのは人生で5冊程度だが、ある本がある方法を使うべきだと書いているかと思えば、別の本でそれは使うべきでないと反対している、ということが多々ある。自分ならどれを選ぶか、そんなことを考えながら色々読み比べてみるのも面白い。

コーポレートファイナンスは、企業が資金を調達し、事業投資し、利益を投資家に還元する一連のサイクル、またはそのサイクルを正しく運用する指針だと著者は定義している。株式会社が登場した当時は誰も株式なるものの価値を評価できず、怪しい株式をつかまされることも多々あったという。コーポレートファイナンスは、投資先の事業価値(企業価値ではない)を評価し、投資すべきか決断するための道具だ。

この本で勉強になったのは、コーポレートファイナンスの評価に不可欠な財務諸表の意味を明快に述べている点だ。

例えばバランスシートの左側「資産の部」は「営業活動や投資活動の結果、会社が持っているもの、これから受け取るもの」。バランスシートの右側「資本の部及び純資産の部」は「第三者に帰属しているもの、これから支払/返済/還元するもの」。右側と左側が一致しているのは、会社が保有する「資産」は必ず第三者に帰属し、会社自体は投資家からお金を預かって価値を生み出すものであり、会社自体にもうけを蓄積するようには本来なっていないから。こういう説明は「右側と左側がバランスしているからバランスシート」などという説明よりもよほど分かりやすい。

本業事業の価値評価は、初期的には、財務諸表のうち営業利益、減価償却、設備投資、売掛金棚卸資産、買掛金、現金及び現金同等物、長短期有利子負債をチェックすればできるというのが著者の主張だ。

この点についてはもっと検討してもいい気がする。例えばマクドナルドは本業は飲食業であるわけだが、マクドナルドの店舗が並ぶ駅前一等地は不動産価格が高く、店舗取得には不動産投資としての意味もあると聞いたことがある。もちろんこれらは財務諸表上は営業外収入になるわけだけれど、マクドナルドの保有する不動産の価値がどれほど大きくても、本業ではないからコーポレートファイナンスでは評価しないのだろうか?  この本ではこの点についてはカバーしていなかったが、いずれ別の本で出会うかもしれない。

 

(2018/03/28 追記)

読み返してみて、忘れていた知識を思い出すとともに、本業事業の価値評価がどんなに難しいことかも再確認した。神ならざる人間が将来起こることの価値評価をするのだから難しいのは当たり前だけれども。このことを著者はこう表現する。

ファイナンスという学問は、適切な将来の利益を見積もり、それに適した割引率を設定する方法を探求する学問とさえ言えるのです。

 

美女たちの西洋美術史 肖像画は語る (木村泰司著)

日本にいると、キリスト教の影響力を感じるのはクリスマスくらいだけれど、西洋美術史キリスト教抜きでは語れない。この本のテーマである肖像画もそうだ。人間は神より劣り、肉体は魂や精神よりも劣ると考えられているキリスト教において、個人の肖像は軽視されたという。14世紀ルネサンスまで、肖像画美術は長い冬の時代を強いられた。

面白いのは、肖像画で人物の向いている側が、地域や時代によって違ったことだ。イタリアでは古代ギリシャ・ローマの伝統を汲み、横顔の肖像画を主に描いた。一方北ヨーロッパでは斜め前を向いている肖像画が主だった。またカトリックでは正面像で描かれるのはキリストだけであったが、聖像崇拝を禁じるプロテスタントはあえて正面像を肖像画に取り入れた、など。

この本に登場するのは美しき王族の女性達だけでなく、公式寵姫、すなわち王の愛人であるディアーヌ・ド・ポワティエやガブリエル・デストレ、ポンパドゥール夫人なども登場する。彼女達の人生は王妃以上に波瀾万丈だ。次の王が玉座につけばお役御免、領地に下がって余生を送るか、運が悪ければ目の敵にされて暗殺される。けれども肖像画の中の彼女達は、そんな運命をみじんも感じさせない、匂い立つような美しさをとどめていて、それがなんとも言えずもの哀しい。

非対称情報の経済学 -スティグリッツと新しい経済学- (藪下史郎著)

この本は、これまでのいわゆる伝統的経済学では説明が難しかったが、実際には大変よく見かけることを説明出来る新しい経済学理論を紹介している。論理展開が多かったため、経済学理論の基礎知識があまりない私にとっては読み進めることがかなり難しかったが、面白い考えるヒントをいくつか得ることができた。

伝統的経済学のいわゆる需要供給曲線などのモデルは、①商品の同質性、すなわち違う会社が売り出す商品間に違いはない、②情報の完全性、すなわち売り出されている商品についての情報が完全に知られており、③所有権、すなわち商品が誰のものであるかはっきり定義でき、所有権の移動についてもはっきりルールが決まっているーーこのような前提をもつ。

どれも現実にあるとはとても言えない前提であるが、この本でとくに取り上げられているのは情報の非対称性だ。市場では情報が不完全・非対称として、市場がどのように機能するかを解析する。

ここで得られるのは伝統的経済学では説明出来ないが、直感的に現実によくあると思われる、さまざまな経済現象への説明だ。例えば著者が例にあげた保険市場では、保険会社は加入者の完全なる情報を持っているわけではない(持病などに加え、運転が乱暴などのくせ)。このため保険会社は、すべての加入者が同じリスクをもつと仮定して保険料を決める。だが、実際にはふだんから運転が荒い人の方が、交通事故で保険料を受け取れる可能性が高いがために、平均化した保険料を払うのはある意味で得になる。

また、彼らが払ってもいいと思う保険料は安全運転の人々より高い。このため、保険料を引き上げると安全運転の人々が保険に加入しなくなり、運転が荒い人々の割合が高くなる、「逆選択」という面白い現象が生じる。

さらには、保険に加入することによって、加入者がそうでない場合と異なる行動をとったり、本来期待されるように行動しなくなることがある。保険があることに安心して、事故を起こさないように努力しなくなるのだ。この指摘は心理学にも関わると思うが、これもまた面白い現象だ。

営業のビタミン プラス・アルファ (和田裕美著)

この本を書いた和田裕美さんは、昨日読んだ『ザ・エージェント ベストセラー作家を探しつづける男』で紹介されていた方だ。この本の著者エージェントでもちゃんと「アップルシード・エージェンシー」が表示されている。鬼塚忠さんが初めて和田裕美さんに会ったとき、その人間力の高さと、世界No.2セールスウーマンという肩書きにもかかわらずごく普通の女性と同じ感覚を保ちつづけていることに感銘し、この方なら女性が共感できる本を書けると思ったという。

実際に読んでみると、まるで著者が目の前にいて面白く語りかけてくるように感じた。書いていることは知りあいが世間話をするようにわかりやすく、語ることは味わい深い。著者は尊敬する上司から勇気が出る言葉をもらったという。

「誰でも持っていて使いこなせていない5つの財産がある。時間、エネルギー、集中力、技術、想像力だよ」

その言葉はその後ずっと著者の心にある。

著者は、営業とは最初にあなたという人間を売りこまなければいけないという。伝える人がよい影響力を持っていればいるほど商品は売れると。これは以前読んだ交渉術の本でも繰り返し説かれていることで、まずはお客様とよい人間関係を築くのが第一という鉄則だ。信用を得るのは言ったこと、約束したこと、その期限などを徹底的に守ること。これが簡単なようでとても難しいのは、関係が深くなるにつれてちょっとだけならという甘えがでてくるから。だからここをきっちりこなすだけで違う。

本当の営業はちょっとだけおせっかいな親切のようなもの、と著者は言う。とてもいい表現だと思う。自分が売っているものが素晴らしいから、「誰かに伝えたくなる」のだ。そのわくわく感はお客様にも伝わる。そうすることでもっと知りたいと思ってもらえる。あなたの役に立ちますよという営業の言葉に耳を傾けてくれるようになるのだ。

ザ・エージェント ベストセラー作家を探しつづける男 (鬼塚忠著)

私は読むのは好きだけれど、書くことについては下手の横好きで、言葉選びも、長い文章を書くのもあまり得意ではない。だから、分厚くずっしりしているにもかかわらず、面白くて最後まで一気に読まずにはいられない本に出会うと、それを書いた作家のすごさにあこがれる。最初に出会ったのは小野不由美さんの「屍鬼」で、それからどんどん分厚い本を読むようになったのを覚えている。

そんな作家を支えるエージェントが本書のテーマだ。

エージェントは作家と契約し、作家の執筆活動を支え、作品を売り出し、原稿料を交渉し、作家が執筆活動に専念できるようその他の活動をプランニングし、作家収入から手数料収入を得る。日本ではまだまだマイナーだが、欧米ではとても一般的で、かのハリー・ポッターシリーズも最初はエージェントに持ちこまれた。近くは村上春樹がアメリカ市場で売り出すにあたって、エージェントと契約したという。エージェントの最大のメリットは、エージェント自身が会社に所属しているため、出版社と会社対会社の契約が結べること、原稿料の相場などに詳しく作品価値を測れることだ。

この本では作家にふさわしいテーマを選ぶにあたって「彼のキャリアを社会に還元できるテーマはなにか」を考える、という点が新鮮だった。ビジネス書などのハウツー本を書きたいのなら、売れる本や書きたい本を考えると同時に、この観点からも考えてみたい。

凡庸から一流のマラソンランナーへ より良い成果のためのコンプリートガイド (マリアナ・コレア著)

 

凡庸から 一流の マラソン ランナーへ: より良い成果のための  コンプリートガイド
 

 

ランニングについての本、2冊目。元プロテニスプレイヤーでスポーツ栄養士である著者が書くのは、マラソンだけではなく、アスリートすべてについての考え方だ。

この本で一番参考になったのは、自信について。「自信とは感情ではない。自信とは信念であり、信念であるがゆえに思考なのです。そして思考はコントロールできます」という考え方は目からウロコだった。これまで私は、自信とは経験を積むことでしだいに湧き上がってくる感情で、コントロールできないと考えていたが、著者はうまく自信をコントロールし、パフォーマンスをあげるために利用できるという。

具体的には「自信の根拠を見つけること」。例えば毎日欠かさずトレーニングしたことなど。自分がなぜ自信を持っているかを把握することで、困難な状況でも集中しやすくなる。

プロのアスリートは競うことを職業として捉えていない、と著者は言う(著者自身もそうなのだろう)。スポーツを心から楽しみ、大好きなスポーツで生計を立てられる恵まれた状況に感謝し、勝敗よりも勝つために競うことそのものを好きになる。そうした人々が一流アスリートになるのだ。

走れるカラダになる 体幹「3S」メソッド (青山剛著)

 

走れるカラダになる 体幹「3S」メソッド

走れるカラダになる 体幹「3S」メソッド

 

 

ランニング入門編としてわかりやすい一冊。著者は水泳と同じくランニングにも最初のトレーニングがあるべきだと考え、さまざまな経験から著者独自のトレーニング方法をまとめた。中核にあるのは「体幹」という考え方だ。

「ストレッチ」「スイッチ」「ストレングス」の三つを提唱しているが、この中でも「スイッチ」が特に重要で、カラダに正しい姿勢を覚えさせ、体幹スイッチを入れてカラダを使えるようにするエクササイズだ。