コーヒータイム -Learning Optimism-

本を読むということは、これまで自分のなかになかったものを取りこみ、育ててゆくこと。多読乱読、英語書や中国語書もときどき。

"Startup: The Complete Handbook for Launching a Company for Less" (by Elizabeth Edwards)

 

Startup: The Complete Handbook for Launching a Company for Less (English Edition)

Startup: The Complete Handbook for Launching a Company for Less (English Edition)

 

 

面白いのひとこと。

起業について本当に基礎の基礎から書いており、分かりやすい英語と軽妙な表現で楽しい読みものに仕上がっている。どれくらい基礎かというと、「起業は金食い虫だからまずは個人支出を削れ、携帯電話のプランを見直せ、ケーブルテレビのチャンネルを解約しろ。私を信じろ、起業後12ヶ月はテレビなんか見てる暇はない」である。

一方でこの本は統計数字で容赦なく現実を突きつけてくる。アメリカでは毎月530,000件の起業がある。76%の起業家は個人資産で起業する。起業にかかる資金の平均は6万5千ドルである。小規模起業のおよそ50%は5年以内に失敗する。失敗理由の上位10個のうち、4個は財務に関するものである。小規模起業のうちエンジェル投資家が出資しているのは3.6% (ベンチャーキャピタルは1.9%)などなど。

数字が厳しすぎて起業家本人にとっては面白くないかもしれない。ではこういうのはどうだろう。80%の購買活動は感情的に判断される。だからブランドを立ち上げて感情面からお客に売りこまなければならない。こういう提言にも数字が入るのはいかにもアメリカらしい。

ところどころ警句のように挿しこまれる言葉にもはっとさせられる。印象に残ったものを引用する。なお英訳は意訳である。

Is this idea feasible in the marketplace? Do your customers know something that you don’t know? Why doesn’t this product or service already exist?

ーーこのアイデアは市場で実行可能だろうか? あなたがお客になってくれるだろうと思っている人々は、あなたが知らないことを知っているのではないだろうか? なぜこの製品もしくはサービスはまだ市場にないのだろう?(あなたが知らないだけで、実はもうあるのでは?)

Money is the No. 1 killer of relationships—even among families—so document everything.

ーー金は人間関係を壊すことにかけては一番有能だ。家族関係でさえも例外ではない。だから(親戚友人から出資を受けるときは)すべてを書面で残せ。

 

 

(2019/06/01追記)

この本を読んだあとに、実際に起業した人々の体験談をネット記事などで知る機会が増えてきた。わたしのお気に入りはニューアキンドセンターのアキンド探訪シリーズ。成功談から失敗談まで、生々しい話がよくそろっている。

アキンド探訪 | ニュー アキンド センター

本書はアメリカでの起業手引書であり、内容はビジネスモデルや資金調達、マーケティングから名刺印刷までの実用的な内容だが、「人」についてはそれほど深入りしていない。「親戚友人から出資を受けるときはすべてを書面化しろ」などとほのめかしている程度だ。

一方、ネット記事でふれる日本での起業物語は、人間関係重視の文化があるためか、圧倒的に「人」の物語であることが多い。逆に、お金やビジネスモデルの話にはさらりとふれるにとどめている。

実際のところ、資金調達やビジネスモデルをうまく計画するための手引書は世にたくさん出ているけれど、起業での一番大きい不確定要素は「人」なのだと思う。

アメリカでの「人」の問題はどういうものがあるのだろう?  男女差別、人種差別、階層社会など、思いつくだけでもいくつも問題があるけれど、起業においてこれらの問題はどのように働くのだろう?

本書を読み、また日本の起業物語にふれるにつれて、そういったことに興味を持ち、調べ始めている。

 

おとなのIT事件簿 (蒲俊郎著)

インターネット時代に法規制がそれに対応出来ていない、あるいはどう対応すべきか意見がまとまっていないという話題はよく聞くが、本書はその中でも身近なケースをたくさん取り上げており、法律用語はやや難解であるものの参考になる。

オンラインショッピング、ポイント付与、ネットショップでの薬品販売など、テーマは豊富だ。例えばポイントの扱い。楽天ポイントやTポイントなど、今や「限りなく電子マネーに近い性格をもつ」ポイントだが、消費者保護のガイドラインはゆるく、一定期間公示すれば規約を変えられる、というのが通例になっている。ポイント有効期間が変更されたことに気づかず、ポイントが大量に失効した場合、法規制の観点からはどう解釈されるか、本書で詳しく取り上げている。

中には法規制ではなく、従業員教育が必要になるケースもある。最近話題にのぼりやすい「炎上」「バカッター」など、飲食店の冷蔵庫に入って自撮りして投稿したり、ホテルに来た芸能人を実名入りでつぶやいたりして拡散され、批判が殺到して勤務先企業の信用が地に堕ちるケースだ。

これらのケースは個人的つぶやきを規制できるものではない (表現の自由侵害にあたるだろう)。本書では「開示した友人以外にも急速かつ無制限に伝播・拡散する可能性をもつという「特殊性」について、徹底して教育することが最も効果的な予防対策」としている。つまりは「友達同士での悪ふざけのつもりだった。こんな大ごとになるとは思わなかった」という言い訳がなくなるように、だ。

ただし炎上目的であえて投稿する人にはもちろん効果がない。親がアクセス数稼ぎのためにYouTubeに子供を泣かせる動画をアップし、児童虐待だと通報されて親権を取り上げられるような事件もアメリカで起きている。この辺の話はこの本に書かれてはいないが、ネット対策は法規制だけでは無理なのが現実で、結局は個人の良心まかせのところが大きい。ただ、その自由度こそが、ネットの魅力に他ならないのが難しいところだ。

「登山体」をつくる秘密のメソッド(安藤真由子著)

80歳でエベレスト登頂を果たした三浦雄一郎氏の登山データを測定し、登山のための身体作りをサポートすることに取り組んでいる著者が、これまで研究で明らかになった登山についての身体変化、望ましい方法をまとめた一冊。登山のための体力測定から基本的なストレッチやトレーニング方法、道具(ストック)を使った衝撃低減など、実用的な技術をカラーページで紹介しており、初心者向けにちょうどいい。

著者が紹介している登山のための身体作りと、以前読んだ『走れる身体になる 体幹「3S」メソッド』で紹介されていたランニングのための身体作りが、一部同じ、一部異なることが面白い。例えば足のつき方。登山の場合は足の裏全体で着地するフラットフッティングが原則。足は地面を蹴って離れるのではなく、腰周りの筋肉(腸腰筋や大腰筋)を使って引き上げる感覚で。一方ランニングの場合はかかとから拇指球を通ってつま先で地面を蹴り離す感覚。足外側に力が抜けないように気をつける。

どこの筋に刺激を与えているか? というトレーニングの原理原則をしっかり意識しながら行うことが大事であり、さらに筋の柔軟性を高めることもとても重要だと著者は強調する。この本で紹介されているトレーニングの原理原則は以下の通り。

 

(1)過負荷の原理:トレーニングの効果を得るためにはある程度強度の高い負荷で行わなくてはならない。つまり楽にできることはトレーニングになってない。

(2)特異性の原理:トレーニングの種類によって鍛えられる機能や部位が異なる。目的を持ってトレーニングを選択することが大事。

(3)可逆性の原理:継続が重要。トレーニングで得られた効果も、トレーニングをやめてしまえば元に戻る。

(4) 全面性の原則:トレーニングはバランスよく行わなければならない。登山やランニング、トレイルといった全身をバランスよく使うアウトドアスポーツは特にそう。

(5)自覚性の原則:鍛えている目的、どこをトレーニングしているか、自覚する。そうすれば自然に注意力がその部位に行くようになり、変化に敏感になる。

(6)漸進性の原則:体力や筋力が向上したら、徐々に負荷を上げていかなければならない。

(7)個別性の原則:トレーニングの内容や負荷は、性別や年齢、体力などによって個別に決めていかなければならない。初心者が運動慣れしている人と同じトレーニングをこなすのは難しい。

(8)反復性の原則:トレーニングの効果を得るためには、繰り返し行わなくてはならない。

バッタを倒しにアフリカへ (前野ウルド浩太郎著)

 

バッタを倒しにアフリカへ (光文社新書)

バッタを倒しにアフリカへ (光文社新書)

 

面白いとネットで評判になっていたので読んでみたが、なるほどこれは強烈に印象に残る。開始2ページで目が点になる本はそうないと思う。

(バッタアレルギーをもつ著者が) 自主的にバッタの群れに突撃したがるのは、自暴自棄になったからではない。

子供の頃からの夢「バッタに食べられたい」を叶えるためなのだ。

実際にバッタの群れが女性観光客を巻きこみ、緑色の服を喰ったというニュースがあったとかなかったとか。バッタの群れに喰われたいとは旧約聖書の読みすぎか? と心配になるが、昆虫研究で博士号を保持している著者の前野氏、大真面目なのだ。

著者が研究しているのはサバクトビバッタモーリタニアを始めアフリカで大発生しては農作物に壊滅的打撃をもたらしている昆虫だ。旧約聖書にも、モーセ出エジプトを妨害したファラオへ、主が下したとされる十罰の第八として登場する。後になるほど罰が苛烈になっていくから、十あるうちの八番目に選ばれたのはそれだけひどい災いであったことを意味する。(ちなみに第九の災いは三日間陽が昇らない「暗闇の災い」、第十の災いはすべての長子が死に絶える「長子皆殺しの災い」である)

壊滅的打撃をもたらすサバクトビバッタだが、野外観察の資料は意外に少ない。バッタの大群発生自体が不定期であり、アフリカという地域も制約条件になっていた。そこに目をつけたのが著者。研究テーマにあっていたからという理由のほかに、ポスドク就職対策という面もあった。「高学歴ワーキングプア」という言葉が本のタイトルになるような時代、ポスドクの就職競争は熾烈だ。誰もやっていないことを研究して論文を出す必要がある。そこに著者は賭けた。

 

この本の魅力は、サバクトビバッタにかける著者の情熱(ほとんど愛する女性を追いかけて口説く勢い)もさることながら、ポスドクとして論文を出さねばならないプレッシャー、そのために被害が出るリスクがあるのを承知で「オレが観察してからバッタを駆除してくれ」と研究所長に頼みこむエゴ、そういったすべてを建前なしで、まるで少年のような素直さでがんがん書いていることだと思う。

そこに、見知らぬ異国であるモーリタニアの生活を写真付きで紹介することでかきたてられる好奇心が加わる。ヤギの内臓を豪快に煮込んだ料理。手づかみの食事。太った女性が魅力的とされる慣習。娘を太らせるかどうかで夫婦喧嘩をする運転手。サソリやヘビがうろつく砂漠。ヘビは水のあるところに近づくからテントでは枕元に水をおいてはいけないという豆知識などなど…。風習も言葉も全然違うサハラ砂漠の国での日常は、魅力たっぷりの非日常だ。

とくに「裏やぎ」のくだりは暗記するほど読んでいるにもかかわらず、毎度笑わずにはいられない。生きたバッタが必要な著者と、被害が出る前に一刻も早くバッタを退治しなければならないと主張する所長の間で衝突が起こったとき、著者は所長の説得をあきらめ、砂漠でバッタと戦う男たちに直接連絡した。その際に著者いわく「お近づきのしるし」に差し出されたのが、モーリタニア人がもらって喜ぶ贈り物ナンバーワンのヤギ、それも豪快に一匹丸ごと。腹一杯食べて満足なバッタ駆除隊に「バッタの大群を見つけたら退治する前に連絡をくれ、そうしたらまたヤギを片手にすぐ駆けつけるから」と耳打ちしたところ、「まったく問題ない」との返事。後に所長にも熱意を認められ、なんとか退治前にバッタの大群を観察研究するわずかな時間を確保できた。

このエピソードは異文化コミュニケーションの成功例として小学生の教科書に載せてもいいのではと半ば本気で思っている(道徳の教科書にはちょっと似つかわしくないかもしれないが)。こちらの希望と向こうの希望が違うのはよくあることで、どちらの言い分も正しく、立場が違うだけであること。問題解決のためには話し合うだけではなく、まわり道して直接担当者に頼みこむ手もあること。その際相手にメリットを提示すれば、話が通りやすくなること。いずれも大切なことで、これをわかりやすいエピソードで小学生に教えるのは、とても意味があると思うのだ。

実際に住んでみたら苦労の連続だろうが、著者は酒の席で語る面白エピソードをまとめるかのごとく、ふふっと笑いたくなるように書いている。私自身は虫が苦手だが、読んでいて著者を応援したくなるような一冊だ。

富士山1周レースができるまで ウルトラトレイル・マウントフジの舞台裏 (鏑木毅、福田六花共著)

 

ウルトラトレイル・マウントフジ(UTMF)。100マイル=160kmのアップダウンのあるコースを48時間かけて走る過酷なレースで、2012年に第一回目が開催されたときから世界的な注目を集め、現在はトレイルランナーに人気の高倍率レースとなっている。

本書は、自らもトップトレイルランナーである鏑木毅と、トレイルランの魅力にとりつかれた福田六花が、UTMFを立ち上げるまでの物語だ。

ウルトラトレイルをたちあげるのは一大プロジェクトだ。まずはレースコースを決めなければならない。落石や滑落などの危険性を最小限におさえ、安全を保障するのは大前提。160kmともなれば2県10市町村にまたがるから、それぞれの自治体の理解を得る必要がある。富士山麓には豊かな生態系が息づくため、環境保全のために、希少な動植物の生息地をコースに組みこむことはできない。極めつけは富士山麓にある広大な自衛隊演習地である。ここを避けてはコースを引けないから、著者らはみずから防衛庁自衛隊演習地を通過させてくれるよう依頼した。

これ以外にも、富士山の自然を堪能できるコースにしたい、朝日に染まる美しい富士山を一望できるポイントを組みこみたい…などなど、コースそのものの魅力を高めるのも忘れてはいけない。さらにはエイドステーションの設置、誘導スタッフや医療スタッフの配置など、やることは山積みだ。

この難しいプロジェクトを成功させたのは、ひとえにマイナーだったトレイルランをもっと日本に広めたいという両氏と協力者達の情熱による。鏑木氏はこう書いている。

空想し、ワクワク、ドキドキすることで、心に内なるエネルギーを溜め込んでいくのだ。このエネルギーの充電こそが、その先に待ち受けていた幾多の困難を乗り越える原動力になったのだと思う。一時的には興奮しても、時が経つにつれ心の中で醒めてしまうような企画はうまくいった試しがない。

日本最初のウルトラトレイルを立ち上げる。それも日本が世界に誇る美しい富士山で。それはとてもワクワクすることだった。ランナーたちもUTMFを楽しんでくれた。これからもずっと続けていってほしい。

社長が知りたいIT50の本当 (谷島宣之著)

報道で気になるIT関連ニュースが流れたとき、「これって我が社ではどうなってるの?」と聞いてくる社長に、技術面・社内政治面・IT部門の利益面などを考えた上でどう回答するか、という面白くもどこか悲哀漂うコンセプトの本。

悲哀漂うと感じてしまうのは、「社長はITのことをよく知らない、説明しても分かってくれたとは言いがたいし予算もつけたがらない。そんな社長が報道のおかげでITに興味が向いたこの一瞬を捉えて、ITの重要性を分かってもらい、人員や予算を割いてもらえるよう交渉するにはどう言えばいいか」という構図が見え隠れするからだ。経営企画にIT活用を盛りこむことを本気で考え、IT専門家の意見に真摯に耳を傾ける社長は、本書では取り上げていない。

ITをよく知らない社長にうまく説明しなければならないIT担当者の苦労は、技術畑出身ではない上役に説明しなければならないエンジニア全般に通じるのではないかとも思う。一方でこの本は、IT専門家が経営者の姿勢で物事を見る練習にもなる。ちなみに社長が最も関心を持つであろうこと、すなわち、IT導入により競争優位に立てるかどうかだが、本書では「競争優位の獲得につながる業務に極めて積極的でない限り、IT投資を増やしても業績は改善しない、ということだ。つまり経営者次第になる」という答えだ。

 

この本の「18. 役割分担の本当」で企業ITについて深く考察している。

著者は経営資産と呼べるのはソフトウェアではなくデータであると断じる。ただしどのようなデータをどのような構造で取得・整理・活用すればビジネスに役立つかは、使い手側のノウハウそのものであり、IT担当者が決められることではないことを強調する。本書の記述を借りれば「データへの要求にはデータの仕様や構造を含む。したがって利用者が責任を持つ。ビジネスの事実を表現するデータである以上、一般の技術者は責任を持てない」ということだ。

ここに役割分担の肝があると私は思う。さまざまなIT関連書籍で繰り返されていることだが、競争優位性保持のためにどんなことができるようになりたいのか、何が経営上の課題なのか、はっきりしていないと、どんなITシステムが必要になるのかわからない。なのにまるでITが魔法の鍵かなにかのように「効率が上がるらしいからうちでも考えてみないか」という姿勢が、こうした本が必要になる原因ではないかと思う。

『ITの正体 なぜスマホが売れると、クルマが売れなくなるのか?』(湧川隆次/校條浩 著)

 

デジタルやITの特徴、シリコンバレーという場所の特徴的な文化、今後キャリアを築くにあたってもつべき考え方を、分かりやすく書いた良本。この本自体、株式会社インプレスR&Dが開発した、NextPublishingという電子書籍と印刷書籍を同時発行できるデジタルファースト型の新出版方式を利用している。

私は少し前まで紙書籍しか利用していなかったが、海外でしばらく仕事することになり、Kindleに切りかえた。Kindle専用リーダーを使っていたときは、紙書籍が手に入るまでの辛抱だと考えていたが、スマホKindleアプリを使うようになってから、スマホが手元にある限り、いつでもどこでもわずかな時間で本を読みすすめられるというあまりの便利さにとりことなった。今では紙書籍のほうが持ち運びに不便でおっくうだと思うほどだ。

これがデジタル化の強力な側面だと思う。専用機を必要とせず、ときには鈍器並みに重い本を持ち運ぶ必要がなく、スマホさえあればあっというまにアクセスでき、コンテンツを楽しむことができる。紙をめくることこそが読書の醍醐味という人は、これからも紙書籍を愛用し続けるのだろうが、私のようなさほどこだわりがない人は電子書籍中心になるだろう。しかもAmazonではしょっちゅう電子書籍のセールをやっており、紙書籍よりずっと安く手に入れられる。万が一スマホが破損しても、データはクラウド上にあり、新しい端末から元通り利用できるのも魅力的だ。紙書籍を水たまりに落としたらこうはいかない。いいことづくめだ。

 

こうした世の中の流れを著者らは、デジタルとはなにか、IT産業の特徴とはなにか、分かりやすくまとめている。それはデジタル産業だけではなく、アナログ産業にも広く行き渡っている。

例えばコモディティ化コモディティとは「どれでも同じ」こと。「製品の違いが普通の人には気にならないレベルにまで縮まった時」に一気に起きて、価格競争に引きずりこむ。代表的なのは家電製品だろう。「日本製品は性能がすばらしく機能も多いが、今の家電製品の主な市場は東南アジアなどの発展途上国だ。彼らは多少性能や機能が見劣っても気にせず、安い製品を選ぶ。だから韓国製品の方がよく売れる」という意見が、すでに何年も前から出てきていた。今、まさにその通りのことが起こっている。韓国製品が市場シェアを握り、逆に日本企業は家電部門をまるごと売却するところも出てきた。

この本では、IT時代を生きる4つのノウハウをまとめている。

1. 多様性 (Diversity)。ユーザーエクスペリエンス (UX) に代表される、個人の嗜好に合うようにカスタマイズされて成長できる製品。

2. 更新性 (Upgradability)。今やソフトウェアアップデートはオンラインが基本で、CD-ROMからわざわざ読みこむことを面倒だと感じる時代である。パソコンからフロッピーディスクが消えて久しいが、CD-ROM読みこみ機能もどんどん外付けハードウェアに切りかえられている。

3. 安い (Cost Effectiveness)。サービスを無料にしてほかで稼ぐ仕組みをいくらでも付加できる。ただしユーザーは無料サービスに慣れすぎているため、稼ぐ(=課金する)仕組みを慎重に設計しなければならない。シリコンバレーでは技術面と並んで、それを使ってどうやってビジネスするのかという面が重視される。

4. (Connectivity)。ITの真骨頂。SNSはもはや説明不要だ。今後は端末間、サービス間の「つながり」がますます重要になるだろう。

 

ところで、新しい仕組みを作ろうとすれば、必然的に古い仕組みとぶつかりあう。私がブログを書いている今この時、最も注目を浴びているのは、おそらく仮想通貨ビットコインと既存通貨とのぶつかりあいだろう。

こうしたぶつかりあいについて、この本で喝破した一文を引用する。

ITの普及によって世の中で起こっていることの根底にあるものは、アナログとデジタルの特徴の違いです。我々の生活の根底をなす仕組みの多くが、アナログの時代に制定されたものです。アナログ技術だって、電気の無い時代の仕組みを壊してきたはずです。古いルールや慣習をそのまま押し付けると、デジタルの良い部分がどんどんスポイルされてしまい、使いにくい部分だけが残りがちです。