コーヒータイム -Learning Optimism-

本を読むということは、これまで自分のなかになかったものを取りこみ、育ててゆくこと。多読乱読、英語書や中国語書もときどき。

【おすすめ】語ることを禁じられた時代の記憶《ワイルド・スワン》

 

ワイルド・スワン(上) (講談社文庫)

ワイルド・スワン(上) (講談社文庫)

 
ワイルド・スワン(中) (講談社文庫)

ワイルド・スワン(中) (講談社文庫)

 
ワイルド・スワン(下) (講談社文庫)

ワイルド・スワン(下) (講談社文庫)

 


これは中国に生を受けた著者とその母親、祖母の人生を書いた真実の物語。中国現代社会に興味があるすべての人が手に取るべき本だ。

 

【上巻】

19世紀末に生まれた著者の祖母は、十五歳で北洋軍閥の将軍の妾にされた。20世紀前半に生まれた著者の母親は、第二次世界大戦と続く中国内戦を生き、共産党の地下工作員として目を見張る活躍ぶりだった。著者はそのさなか、1952年に生まれた。

文庫版は全3巻で、上巻は著者が生まれるころまでの、祖母と母親の物語である。

 

自伝や家族の伝記を出すのは、現代日本ではごくあたりまえのことに思えるだろう。だが、現在還暦前後やその親世代の中国人にとっては、苦行以外のなにものでもない。

中国の戦後を生き抜いて (この表現がふさわしい) きた彼らは、みなそれぞれの物語を持っているけれど、それが文字になるのは少ない。「もうあの時代のことは思い出したくない」という人が非常に多いためだ。

悲しい理由がある。思い出そうとするだけで心が耐えられなくなるのだ。著者、ユン・チアンは文庫版前文でこう書いている。

一九六六年から一九七六年まで続いた文化大革命で、私の家族は残虐な迫害を受けました。父は投獄されて発狂し、母はガラスの破片の上にひざまずかされ、祖母は苦しみの果てに亡くなりました。

内戦中に活躍した著者の母親が、なぜ迫害されたか。上巻ではこの時期までたどりつかないが、中巻以降、徐々にはっきりとしてくる。

それだけではない。餓死者が出るような時代で壮絶な苦労をしたからだけではない。時には隣人、友人、親戚、親兄弟を見捨てなければ自分が生き延びられない経験をした人が大勢いる。そのことで今も良心に呵責されつづけている。

中国ではなくカンボジアでの話だが、石井光太氏の著書『物乞う仏陀』に象徴的なエピソードがある。

物乞う仏陀 (文春文庫)

物乞う仏陀 (文春文庫)

 

カンボジアで障害者がどのように生きているのか知ろうとした著者は、ある先天性障害者に会った。その人は旅行者の案内などもする社交的な人だったが、昔のことや生い立ちは決して話さない。著者には理由がわからない。通訳がうんざりしたように、強い口調で言った。

「お前、何人殺して助かった?」

ポル・ポト政権下では、障害者はユートピア建設の足手まといとされて粛清対象だった。粛清とはすなわち虐殺である。先天性障害者が生き延びるすべはただ一つ。障害者の隠れ家を当局に密告し、その手柄と引きかえに見逃してもらうこと。

現地人の通訳はそのことを知っていた。だから脂汗を流すその先天性障害者に容赦なく問う。「障害のある人間が、密告しないでどうやって生き延びたっていうんだよ。カンボジア人を何人売ったんだ?」と。

生き延びたこと自体が、加害者側であった証。そうみなされる時代が、実際にある。

ユン・チアンが書くのは、中国におけるそんな時代の物語。誰もが思い出したくないことを血と涙とともに文字に凝縮させた、中国の祖父母世代と親世代の物語だ。

 

ちなみにこの本は、中国本土では出版禁止である。

 

【中巻】

中巻では著者の少女時代に物語がうつる。1950年代から1960年代にかけて。この本は中国本土では出版禁止だが、この中巻を読めば理由の一端にふれられる。

 

1959年からの三年間を生きた年老いた中国人に、当時のことを聞くと、一様に顔色を変えて口が重くなるという。

中国には「三年自然災害」という言葉がある。1959-1961、三年間続いた大飢饉のことだ。正確な統計数字は存在しないが、数千万人が餓死したといわれる。その時代を生きた人々は例外なく、家族が、親戚が飢餓にあえぐのを見た。衰弱しきった人々が口に入るものを求めて幽鬼のごとくさまようのを見た。ついには人肉食に手をそめてまで餓死から逃れようとした人々の話を聞いた。

この悲劇は言葉通り自然災害のためというのが公式見解だが、中国国外の歴史家たちは、毛沢東の経済政策の失敗による人災と見るむきも少なくない。実際、この時代は「大躍進」と呼ばれる西側諸国に追いつけ追い越せの大運動が毛沢東主導で全国的に巻き起こっていたが、ノウハウも近代的な農業機械すらない状態でうまくいくはずもなく、むしろ農地を荒れさせた。一方で非現実的な「成果報告」(もちろん虚偽)をして、大躍進の成功を大々的にアピールすることが奨励、いや、事実上強制された。著者の言葉を借りればこういうことだ。

とほうもない作り話を他人にも自分自身にも吹きこみ、それを信じこむ、という愚行が国じゅうで行われた時期であった。

著者は当時まだ10歳にもならない少女で、父母が共産党高級幹部だったために飢餓から守られた。高級幹部専用のアパートメントに住み、外の世界でなにが行われているのか知らないことも多かった。だが著者の父親は見た。視察に赴いた農村で、痩せ衰えた人間が突然倒れて事切れるのを。このことは父親に強烈なショックを与え、共産党支配や自分自身の役割について、自省するきっかけになった。盲目的に信頼していた共産党とは、と、考えるきっかけはこのとき芽生えたのかもしれない。後日著者の父親は文化大革命のさなか、毛沢東を批判したために投獄され、狂気にむしばまれる。

毛沢東は宮廷政治における権謀術数を記録した数十巻にのぼる『資治通鑑』を愛読しており、他の指導者たちにもこれを読むよう勧めていた。実際、毛沢東の支配は中世の宮廷に置き換えて見るのがいちばん理解しやすい。

文化大革命」という言葉は、その時代を生きた中国人にとって、恐怖と惨劇と破壊と暴動と混乱を足して割らずに二乗するほどの意味をもつ。それこそが文化大革命の真の目的でもあったというのが著者の意見だ。文化大革命のさなか、紅衛兵という十代から二十代の若者を中心とし、毛沢東に絶対的忠誠を誓う組織が暴虐の限りを尽くしたが、彼らは毛沢東が妻江青を通して煽動した。これは権力闘争の一環だった。共産党そのものを事実上解体し、毛沢東ただひとりに権力を集中させるために。

人民を思い通りに動かそうとするならば、党から権威を奪い、毛沢東ただひとりに対する絶対的な忠誠と服従を確立しなければならない。そのためには恐怖という手段が必要だ。それも、あらゆる思考を停止させあらゆる懸念を押しつぶすような戦慄に近い恐怖が必要だ。毛沢東の目には、十代から二十代はじめの若者が格好の道具と映った。

血気盛んな若者たちが大義名分や個人的恨みのために、批判してもよいと言われた教師や知識人たちになにをしたか、両親の身体がどのように殴打や拷問にさらされたか、精神が、尊厳が、どのようにふみにじられたか、身の毛のよだつような体験を、著者は冷静さを失わない文章でつづる。

けれどもこれを書き上げるために著者はどれほどの夜を涙で明かしたことだろう。文章が感情的にならないようにどれほど自制心をきかせなくてはならなかっただろう。それでも著者の押し殺された慟哭が、それが文章の間から血臭のように匂い立つのを感じる。

 

迫力ある文章は、書き手が血の滲むような経験を、さらに追体験することで生まれる。

これまで私が読んだ中で、最も痛々しい文章を書くのは作家の柳美里さんだが、ユン・チアンはそれに勝るとも劣らない。

柳美里不幸全記録

柳美里不幸全記録

 

文化大革命の混乱と破壊の中で、どんなに痛めつけられようとも尊厳を失わず、信念を貫こうとする両親の姿を抉るように書いて、中巻は終わる。

 

【下巻】

下巻では、中巻までに書かれたこの世の地獄そのものの光景から、徐々に上向いていく。

 

少女時代からおとなにならざるを得なかった著者は、都会から農村に送られる。両親も同様で、家族はバラバラになった。祖母は苦しみの中で世を去り、父親の狂気はなんとか再発しなかったものの、重労働を課せられて健康状態が悪化した。

だがこのころから政治状況がしだいに改善する。毛沢東が死去し、文化大革命を煽動した江青一派(もちろん背後には毛沢東の容認があった) が投獄され、中国はしだいに改革解放にむかう。

それでも著者の文章には一抹の陰が消えない。文化大革命の十年で、中国は美しいものをことごとくなくしてしまったと言葉少なに語る。今日、残念ながら中国人観光客はほとんどマナー知らずの代名詞になっているように思う。自己中心的なふるまいは、あるいはこの時期に種まかれたのかもしれない。時には実の肉親を告発し、また縁を切らなければ生きてゆけなかった時代に、思いやりの心が育つはずもない。

 

祖母、母、著者の三代にわたる自伝は、とほうもなく強いエネルギーをもっている。狂乱の時代に翻弄されるさまを書ききることで当時の状況をみごとに描き出しているし、その時代に流されずに己の信念を貫こうとした人々の気高さが映し出されている。読むほどにこちらにまで迸るエネルギーが迫ってきそうな、傑作だ。

ブロガーの人生観『小さな野心を燃料にして、人生を最高傑作にする方法』

はあちゅうというブロガーがいることは聞いたことがあったけれど、彼女が書いたものを読むのはこれが初めてだ。最近彼女がAV男優と事実婚しているというネットニュースを見て、どんな女性なのか気になった。なにしろカメラの前でほかの女性を抱くのが仕事のAV男優である。一般的にはおそらく浮気に分類されることを仕事とするプロフェッショナルを伴侶に選ぶとは、並大抵の割り切り方ではない。いったいどんな性格と経歴の女性が、こういう風に割り切れるのだろう? 気になって著書を探した。

 

この本はライフスタイルコーディネーターである村上萌さんとの共著。あるタイトル、例えば「幸せには型があると思ってた」について、それぞれ一章ずつ自分の経験や考え方を書いていく珍しいスタイルだが、色分けされているうえに内容もちょうどキリよくなるようにしているから、混乱することはほとんどない。

子供時代、学生時代、試行錯誤の自分探し。タイトルには「方法」と入っているものの、自分がこれまでやってきたことを無理に方法論に落としこんだり一般化したりすることなく、「自分はこうしてきた」「色々試行錯誤したしうまくいかなかったこともたくさんあるけど、今こうして自分の生き方を仕事にしている」と、本を通して二人の女性がゆったりと語りかけてきている。中でも私がいいなと思ったのは、はあちゅうさんの「経験をリサイクルする」という考え方。

例えば、有名なレストランでごはんを食べた経験が一回あれば、そのレストランのことを書いてもいいし、一緒に行った人のことを書いてもいいし、ごはんのことを中心に書いてもいいんです。こうやって、ひとつの経験を何かにつなげられた時は、「私、すごい得した‼︎」と嬉しくなります。

 

はあちゅうさんの恋愛観はこの本にはほとんど書かれていなかったが、最後にこうある。

私の前での態度が私の望むものであれば、「世間にどう思われているか」はまったく気になりません。

事実婚のパートナーを選ぶにあたり、彼女はブレずに有言実行したのだ。凄い。

全女子必読『なぜ幸せな恋愛・結婚につながらないのか 18の妖怪女子ウォッチ』

筆圧女子ぱぷりこ様による必読の書。ブログ「妖怪男ウォッチ」は読み返しては身悶えしていました。これとかこれとか。というか全部おすすめ。

キラキラ婚活女子が望むハイスペ男との結婚は、こんな地獄ですけどいいですか - 妖怪男ウォッチ

映画『百円の恋』レビュー。セックスと恋愛に人生を変えてほしがるアラサー女子よ、殴られろ。 - 妖怪男ウォッチ

「自分を認める」とは、自分の精神解体ショーをして、腐臭ただよう臓腑をのぞきこむことだ - 妖怪男ウォッチ

年末にメンタル闇落ちする不倫女子の正体は「愛されて育った素直なマジメ女子」 - 妖怪男ウォッチ

 

そんなぱぷりこ様の著書第二弾がこの本。幸せな恋愛・結婚につながらないのはなぜなのかぶったぎり分析してくれます。理想がかなわないのは私達が妖怪女子だから!と喝破し、妖怪女子タイプ分け、傾向と対策までまとめてくれている親切設計です。

ちなみにわくわく★妖怪女子フローチャートによると私は餌の女王らしい。心当たりはなくもない。ものすごい幸運とものすごく親切な友人にめぐまれなければこじらせて闇落ちしていたでしょう。昔の読書記録読み返しながら「なんなんだこの闇落ち寸前で蜘蛛の糸を必死で見つけようとしているラインナップは」と空恐ろしくなりながら整理していたのが当ブログの[昔読んだ本たち]のシリーズ投稿です。

餌の女王化したのはなかよし・りぼん愛読者だった頃までさかのぼります。お互い目線のやりとりだけで考えていることに正確に推測するエスパー機能標準搭載の男女主人公が、なにが起ころうが決して愛想をつかず、最後はハッピーエンドにたどりつく恋愛物語にどっぷりつかっていつかはこういう恋がしたいって中学生段階で思考停止。今でいう韓流冬ソナ中毒に近いかも。

ぱぷりこ様がこの本を書いたのは、後悔妖怪になるリスクを減らす防護策を盛り込むため。「どうせ皆どこかしら妖怪なのだから、自分が納得できる生き方をして、後悔妖怪になることを全力で避ければよし!」というぱぷりこ様が押す妖怪女子離脱の掟はこちら。

  1. つらい現実をちゃんと認める
  2. 自分の欲望や理想を、キラキラ粉飾せずに把握する
  3. 他人に丸投げせず、自分のことは自分で決める

ようするにこの間(Twitterで流れてきたんだったかな?)で聞いた「人生のハンドルを他人に委ねる者は、人生を破壊されても文句はいえない」です。だって自分で運転してないんだから。

人生は百鬼夜行!あなたも私も妖怪!

 

[昔読んだ本たち]読書記録さまざま(五)

昔の記録類を片付けていたら出てきた読書記録を見直していく。まだまだ続くと思いきや、これで終わり。缶チューハイとともにどうぞ。アルコールをかけてお焚きあげしたい、思考的迷走とモラトリアムと自己認識歪みが顕在化したかのようなラインナップ。

 

岩月謙司『思い残し症候群 親の夫婦問題が女性の恋愛をくるわせる』

なかなかいい本を書く専門家だと思っていたら、相談に訪れた女性への準強制猥褻罪で実刑判決食らってたからぶっとんだ。でも本の内容は良い。

思い残し症候群は、親にしてほしかったことをしてもらえなかったために発生する。されていないことで傷つくのである。女性の父親への思い残しで一番多いのが「父性愛の欠如」であり、母親への思い残しで一番多いのが「母親から悦びの共感をしてもらってないこと」「母親から幸せを願われないこと」である。

心の中に怒りがあると、自分がなにをしている時に一番嬉しいのか、悦びの感情が湧かなくなるので、ズレたまま行動している自分に気づかなくなる。だが結婚生活で最も重要なことは、相手の悦びに共感できるかどうかなのだ。

女性は父親と自分との関係と、恋人と自分との関係がイコールになるような恋人選びをしてしまう傾向が非常に高いので、機能不全家族で育った女性の多くが恋愛不全になりやすい。なぜなら親の子への愛というのは【いかに親以外の人から愛情をもらうか、その方法を教えること】であると言ってもよいが、親から最低限の愛情をもらえないと、人間不信が強くなって、親以外の人から愛情を調達できなくなるからだ。

 

岩月謙司『なぜ白雪姫は毒リンゴを食べたのか』

なぜ、「白雪姫」は毒リンゴを食べたのか

なぜ、「白雪姫」は毒リンゴを食べたのか

 

私の本の選び方は、なかなか良い本に出会うと、同じ著者が書いたほかの本も片っ端から読んでみる、というものだ。これもその過程で読んだ一冊。

子供は親に共感された時、親に愛されていると感じる。悦びの共感がなによりの励ましなのだ。だが嫉妬されれば存在を否定されているも同然だと感じ、激しい恐怖を回避するために行動するようになる。第一希望を実行すれば嫉妬されるから、それを回避し、第三希望を実行して安心するのだ。これは幸せ破壊行動以外のなにものでもない。幸せ恐怖症になるのだ。

幸せ恐怖症を克服するためには、なぜ幸福が怖いのか、なんのために幸福を壊すのか、メリットはなにか、という幸せ回避と幸せ破壊の目的と利益を分析しなければならない。「ああ、自分はなんてバカなことをしてきたんだ!」と自己嫌悪でき、過去の自分の不自然な行動を心の底から醜いと思えるようになれば、それがブレーキとなり、幸せ破壊行動を止められるようになる。

 

岩月謙司『娘の結婚運は父親で決まる』

同じ著者による本の3冊目だが、内容がだんだん以前読んだ2冊に似通ってきたので、読書記録は言葉少なだった。

 

酒井順子『負け犬の遠吠え』

負け犬の遠吠え

負け犬の遠吠え

 

勝ち組負け組を堂々と書いた強烈なエッセイ。

面白いことより、将来的に得なこと、と考えるのが未来の勝ち犬であり、今面白いことをしたいと考えるのが未来の負け犬だ。他人にお得感を与えることができる一方、それにすがって生きるのは痛々しい上に哀しみも伴うので、弱みやマイナス面もちらりと見せて親近感を得る。いかに生きるかはこのバランスのとり方にかかっている。

 

香山リカ『くらべない幸せ』

くらべない幸せ ?「誰か」に振り回されない生き方?

くらべない幸せ ?「誰か」に振り回されない生き方?

 

何冊かこの手の本を読んでいたことが読書記録からわかるが、たいていは女性側が男性に選ばれるようにいろいろ努力しなければならないという内容で、古風な考え方に思える。まだ過渡期だったのかもしれない。その中で香山リカ氏の著書はかなり女性の自立を肯定しており、今のままの自分を肯定して自尊心をもちなさいということを説いている。

 

アラン・ピーズ&バーバラ・ピーズ『嘘つき男と泣き虫女』

文庫版 嘘つき男と泣き虫女

文庫版 嘘つき男と泣き虫女

 

男女性差について分析した名著。男はもともと狩猟者であり、獲物を倒し、家族を敵から守るために狙いを正確に定めなければならない。ゆえに男脳は視覚・空間領域が発達している。標的を正確にねらいうちすること、問題を解決すること、男の存在理由はその二つに尽きる。男にとって女からアドバイスされることは、問題解決できない無能者の烙印を押されるのと同じであり(また育つうちにそう感じるよう条件付けされ)、逆に女の問題を解決してやることで、愛情を表現しているつもりになるのだ。

 

デヴィッド・M・バス『女と男のだましあい ヒトの性行動の進化』

女と男のだましあい―ヒトの性行動の進化

女と男のだましあい―ヒトの性行動の進化

 

同じテーマの本をもう一冊。われわれが現在採用している性戦略は、先祖に作用していた淘汰圧によってつくり出されたものである、ということが本書の中心だ。

女は初期投資の大きさゆえに、配偶者選択に慎重になるよう進化してきた。卵子数、十月十日の懐妊におけるエネルギー消費、一、二年にわたる授乳という莫大な投資を覚悟しなければならないため、投資に見合う利益をもたらしてくれる資質をそなえた男性を好む。経済力と浮気しない真面目さである。

一方男性は繁殖能力という直接知ることができない資質を重視するよう進化してきた。若さ、身体的な美しさーーなめらかな肌と美しい目は若さと健康を示すものでもあるーー、また魅力的な女性を手に入れられることは男性の社会的地位の高さの証明にもなる。女性は社会的地位の高い男性に惹かれるよう進化したからだ。特に男性が純潔と貞淑を重視するのは、子供が間違いなく自分の子孫であることを保証する手段としてである。

 

斎藤学『家族依存のパラドクス オープン・カウンセリングの現場から』『アダルト・チルドレンと家族』

アダルト・チルドレンと家族―心のなかの子どもを癒す

アダルト・チルドレンと家族―心のなかの子どもを癒す

 

 

同じ著者による本を続けて2冊。いずれも家族をテーマにしている。アダルト・チルドレンの特徴と対処方法をわかりやすくまとめている。

脳みそを揺さぶられるミステリーの傑作『ウォッチメイカー』

尊敬するブログ「わたしが知らないスゴ本は、きっとあなたが読んでいる」の中の人に選ばれた徹夜小説。ブログでも紹介されている。明日の予定のない土曜の夜に待ちきれず手にとった。

『スゴ本』中の人が選ぶ、あなたを夢中にして寝かせない「徹夜小説」5作品 - ソレドコ

徹夜小説『ウォッチメイカー』: わたしが知らないスゴ本は、きっとあなたが読んでいる

 

途中で頭がくらくらしていったん休憩が必要になった。あまりにもたて続けにこれまで読んできた物語が塗りかえられて、息切れしている。脳は興奮しきっていてこのままではオーバーヒートするから、冷やさなければならなくなった。こんなことは初めてだ。全力で殴られる感覚。まさにこの表現がふさわしい。

誰が嘘をついている? 誰の言葉が事実と同じ?

読んでいると何度もそう確認したくなる。主人公の四肢麻痺の科学捜査専門家 (いわゆる安楽椅子探偵) リンカーン・ライム、その相棒で現場検証のエキスパートであるアメリア・サックス、協力関係にある刑事ロン・セリットー。これらの人々はまあさすがに信用できるとしても、それ以外の登場人物の全員を疑いの目で見ずにはいられなくなるほど、見事に作者に騙される。ほっと一息つく瞬間を狙ってとんでもないことを挿しこまれるから、また息を殺して続きを読むはめになり、いっこうに心臓が落ち着かない。

この本は確かに、そう、ある地点を過ぎればそこから先はなにが起ころうとも本を離す気になれないだろう。最後まで読み終えるまで。

 

アメリカ人のネタ帳『4000 Decent Very Funny Jokes』

どのページを開いてもおもしろい英語のジョーク集。数行という短さゆえすぐに読めて、ふふっと笑える。

58.

First Soldier: "What made you go into the army?"

Second Soldier: "I had no wife and I loved war. What about you?"

First Soldier: "Well, I had a wife and loved peace!"

兵士1: どうして軍隊に入ったんだい?

兵士2: 妻がいないし戦争大好きなんだ。君は?

兵士1: うん、僕には妻がいて、平和を愛しているんだ!

平和主義の妻のために軍隊に入ったというほほえましい読み方もできるけれど、まあおそらく毎日妻とケンカして家庭が戦争状態なんでしょうね…。ジョークの中では結婚は墓場、妻は口うるさい、というのを笑いとばすものが数多い。以下もそのひとつ。

111.

“Liza, I cannot marry John. He does not believe in hell.”

“Don’t worry about that. You just marry him. He will start believing in hell soon after!”

「リザ、私ジョンと結婚できない。彼は地獄を信じていないのよ。」

「心配いらないよ。結婚なさいな。彼はすぐに地獄を信じるようになるから!」

リザの友達が、ジョンを「地獄を信じないから結婚できない」といっているのは、宗教心が薄く、キリスト教の世界観を信じないという意味だ。おそらく友達自身は信仰心厚く、夫となる人にも同じ信仰心をもってほしいのだろう。ところがリザはそれを知ってか知らずか、「結婚は墓場」だから結婚生活は地獄だって彼はすぐに思うようになる、という返しをしているのがユーモラス。

 

仕事もジョークのネタにされる。アメリカではおそらく弁護士関係のジョークが多いだろうが、そのほかにもさまざま。

96.

Editor: “Did you write this poem?”

Contributor: “Yes, every line of it.”

Editor: “Then I am glad to meet you, Mr. Edgar Allan Poe. I thought you were dead long ago!”

編集者: この詩はあなたが書いたのですか?

投稿者: そうだよ。どの行もね。

編集者: なら、あなたに会えて光栄です、エドガー・アラン・ポー様。あなたはずっと前に亡くなったと思っていましたよ!

要するに名作家エドガー・アラン・ポーの詩のパクリだったということ。編集者の皮肉たっぷりの返しがおみごと。


ふふっと笑えるジョークを読みながら、英語圏の文化事情にもふれられる本。午後のお茶受けにぴったり。気分が晴れない日の特効薬としてもどうぞ。

 

[昔読んだ本たち]読書記録さまざま(四)

昔の記録類を片付けていたら出てきた読書記録を見直していく。今回は男女関係の本が多めな気がする。

 

ダン・ガードナー『リスクにあなたは騙される 「恐怖」を操る論理』

リスクにあなたは騙される―「恐怖」を操る論理

リスクにあなたは騙される―「恐怖」を操る論理

 

飛行機に乗る方が車より危険だと感じたことはないだろうか?  統計上の事故死亡率は真逆である。

人は理性のほかに太古から生存のために進化してきた「無意識」「腹」「感情」などと呼ばれるものがあり、この判断時間は短く、影響力は強いが、狩猟時代でなくなった今は、現代にそぐわない判断を下すことも多い。そのため人はリスク判断が難しいし、外部条件によって実際とはまったくちがう判断をすることもある。

 

衿野未矢『依存症の女たち』

依存症の女たち (講談社文庫)

依存症の女たち (講談社文庫)

 

衿野未矢は、女性のふるまいを同じ女性の立場から丁寧に拾い上げてエッセイに書いている。登場する女たちはごく普通に歩いていそうな女子ばかりで、一見変わっているようには見えない。だが、つきあってみると違いはすぐわかる。携帯をいじらずにはいられなかったり、いつもなにかを食べていたり…。

対象へののめりこみが悪影響を及ぼしているのに「せずにいられない」と追いつめられた気持ちになって、さらにのめりこむ。激しく後悔し、その後悔がさらに依存に追いやるという負のスパイラルを、まるで再現ドラマのようにはっきりイメージできる形で書いている。

 

衿野未矢『「さん」の女、「ちゃん」の女』

「さん」の女、「ちゃん」の女

「さん」の女、「ちゃん」の女

 

同じ著者による本をもう一冊。選ばれ女子、愛され女子の先駆けのような内容。

「さん」の女は、仕切りや段取り、責任を引き受け、うまくいかなかったら反省する。「ちゃん」の女は感覚的に行動してうまくまわりに動いてもらい、うまくいかなかったらすべて他人のせいにできる強さとたくましさがありながら、お金や愛情などに頼らないと生きていけないので、男性から「守ってあげたい」と思われて結婚も早い。結論からいうと「さん」の女は「ちゃん」の割合を増やすと、男性にとって気になる存在になれる。

 

白河桃子『結婚したくてもできない男 結婚できてもしない女』

結婚したくてもできない男 結婚できてもしない女

結婚したくてもできない男 結婚できてもしない女

 

男性が見たら憤慨しそうなタイトルだが、2000年代初めの自由恋愛時代をまじめに書いた本。

 

亀山早苗『渇望 女たちの終わらない旅』

渇望 - 女たちの終わらない旅 (中公文庫)

渇望 - 女たちの終わらない旅 (中公文庫)

 

この著者は不倫を男女両方の側から書いたルポルタージュを出しているが、この本は少し違う。更年期前後の女性たちのエピソードから、人生を振り返ったときに感じること、女として終わりに近づいていることに対する焦り、寂しさ、孤独感を描写している。自信がないから卑下し、それが女の心を哀しくねじ曲げていく。シングルの女性が母の介護をしながらふと「私が倒れても誰も見つけてくれない」と思う。タイトルは孤独に苛まれ、女としての幸せを渇望するという意味だ。

 

香山リカ『恋愛不安 大人になりきれない心が欲しがるもの』

恋愛不安 (こころライブラリー)

恋愛不安 (こころライブラリー)

 

どんな恋人がほしいかもわからないまま、恋をしていないと不安、恋さえすれば悩みは解決、という思いこみにはまる女性たちを容赦なく書き立てる本。恋愛に必要なのは、私は人を好きになっていいんだ、私は好きな人に自分の気持ちを伝えていいんだ、私は愛されていいんだ、と思うのに必要最低限な自己信頼感だと、著者は指摘する。

 

香山リカ『女は男のどこを見抜くべきか』

女は男のどこを見抜くべきか

女は男のどこを見抜くべきか

 

同じ著者による本がもう一冊。こちらは恋人の選び方。