コーヒータイム

日々読んだ本を紹介しています。英語や中国語書も時々。面白そうだと感じる本があれば、ぜひあなたも読んでみてください!

小説・エッセイ

1000年前に生きた女性だけれど、現代社会にいてもまったく不思議ではない〜田辺聖子『むかし、あけぼの 小説枕草子』

田辺聖子さんの名前を知ったのは、しばらく前に源氏物語「若紫」帖の定家本がみつかったというニュースが駆け巡ったとき。Twitter上で古典愛好者が大盛りあがりをみせ、定家本発見がいかにすごいことか力説する中で、誰かが田辺聖子の名前を出し、古典入門書…

女性読者は心臓を日本刀で刺されたような衝撃を受けるだろう〜チョ・ナムジュ『82年生まれ、キム・ジヨン』

韓国社会で一大ベストセラーになったこの小説を遅ればせながら読んでみた感想。 「これ、女性読者には心臓を日本刀でぶっ刺されたような衝撃を与えそうだけど、男性読者には響くんだろうか」 ストーリーは至極単純だ。主人公キム・ジヨンは夫と1歳になる娘…

どこまでがフィクションですか?と聞いてみたい、是非〜有川ひろ『イマジン?』

どこまでがフィクションですか? ーーと、真っ先に原作者の有川ひろさんに聞きたい。是非聞きたい。 内容としては、大ヒットした映画『カメラを止めるな!』に似ている。映像制作会社に勤める主人公とまわりのスタッフが経験するさまざまな撮影現場を通して…

ロシア語通訳として見聞きした世界〜米原万里『心臓に毛が生えている理由』

『嘘つきアーニャの真っ赤な真実』の著者のエッセイ集。ロシア語通訳として政府高官やメディア取材に同行することがよくある著者ならではの視点から、日本との文化的違いが浮き彫りになるワンシーンを切り取った文章が多い。とくに著者の本業である通訳にか…

英国貴族の執事たる者の矜持〜カズオ・イシグロ『日の名残り』

ノーベル文学賞を受賞したことで、日本で一躍脚光を浴びたカズオ・イシグロ氏の代表作。 一読してみたところ、日本でいう王朝平安文学のイメージに近い。優美な衣装を身にまとい、雅なあそびに興じる貴族たちに仕える使用人が、筆をふるい、華やかな日々を思…

日々の暮らしの中からさっと書き留めた『無名仮名人名簿』

向田邦子さんのエッセイ集、第二弾。 『父の詫び状』は家庭事情が多かったが、このエッセイ集は、向田邦子さんが仕事をするようになってからのちょっとしたできごとを書いているものが多い。「昔はこうだったけれど、今はこうなった」系の話もちょくちょく出…

昭和のご家庭におじゃまします『父の詫び状』

初めて読んだ向田邦子さんの文章は「字のないはがき」というエッセイで、国語の教科書に載っていた。戦時中、集団疎開で東京を離れることになった、字が書けない妹に、父が自宅住所記入済みの葉書の束を渡して「元気なら、この葉書の裏に丸を書いて、一日一…

中流家庭からの転落劇『下流の宴』

林真理子さんの『下流の宴』は、私にとって、時々読み返したくてたまらなくなる小説である。 とてもわかりやすい文章で、読んでいるとまるでドラマのようにワンシーンが思い浮かんでくる(実際にドラマ化もされている)。だけど、一皮まくると、「どろりとし…

【おすすめ】小説ではなく人生そのもの『白銀の墟 玄の月』

白銀の墟 玄の月 第一巻 十二国記 (新潮文庫) 作者: 小野不由美 出版社/メーカー: 新潮社 発売日: 2019/10/12 メディア: 文庫 この商品を含むブログを見る 白銀の墟 玄の月 第二巻 十二国記 (新潮文庫) 作者: 小野不由美 出版社/メーカー: 新潮社 発売日: 20…

中国公務員を知るための必読書《候衛東官場筆記》

中国の小説は、ビジネス小説と公務員小説が人気ジャンルになっているが、この本は公務員小説の草分け的存在であり「公務員を目指すなら必ず読め」と言われている名作。シリーズは何冊も刊行されており、登場人物304名、84件の内部闘争、66の公務員期間、23回…

感想がひどく書きづらい、なんともいえない読後感『黒祠の島』

黒祠の島 (新潮文庫) 作者: 小野不由美 出版社/メーカー: 新潮社 発売日: 2007/06/28 メディア: 文庫 購入: 5人 クリック: 268回 この商品を含むブログ (34件) を見る 一度めに読み終わったあと、消化不良感が残り、もう一度最初から読んだ。 「信頼できない…

女達のサイドストーリー『烏百花 -蛍の章-』

大人気の八咫烏シリーズの番外編。本編ではほとんどの作品が武人の雪哉と若宮を主人公としているため、どうしても男中心の物語になる。けれど本編ではあまり語られない女達にもそれぞれの物語があり、生き方があり、甘い恋や苦い恋がある。今作はそれらを集…

罪をつぐなうにはどうするか『虚ろな十字架』

仮出所中の強盗殺人犯に娘・愛美を殺された小夜子が、死刑廃止論に断固反対するライターとなり、数年後、彼女自身が、ある殺人事件の被害者になった。いったいなにがあったのか、事件後に離婚した元夫・中原が、亡き小夜子の最後の足取りをたどっていく。そ…

美味しいお刺身盛合せのような物語『県庁おもてなし課』

県庁観光振興部おもてなし課。高知県庁に実在する課である。 この小説は、おもてなし課に所属する主人公・掛水和貴と、掛水の誘いでおもてなし課に加わることになった明神多紀の淡い恋愛を中心に、おもてなし課が高知県観光を盛り上げようと悪戦苦闘する物語…

聖なるものは欲望から生まれる《大聖堂》

大聖堂 (上) (ソフトバンク文庫) 作者: ケン・フォレット,矢野浩三郎 出版社/メーカー: ソフトバンク クリエイティブ 発売日: 2005/12/17 メディア: 文庫 購入: 26人 クリック: 721回 この商品を含むブログ (114件) を見る 大聖堂 (中) (ソフトバンク文庫) …

優等生が見た世界《車輪の下で》

子どものころ、この本を手に取ったことがある。小学生向けにやさしく書き直された児童文学だった。だが、少し読んだだけでやめてしまった。重苦しい雰囲気が好きになれなかった。 大人になって、最後まで読み通せるようになった。ドイツ文学ならではの抑揚の…

100語で小説を書いてみたらこうなった『100 TINY TALES』

“Drabble” という英語小説形式をご存知だろうか。100単語の短編小説である。ちょうど100単語、多すぎず少なすぎず。100単語で面白い物語を切り出すことはとても面白い挑戦である。 本書はひとりの小説家が100単語のDrabbleを100本書き下したもの。内容は実に…

無邪気な残虐性《君のためなら千回でも》

読め。 と、渋谷交差点のど真ん中にでかでかと極彩色太字で書きたくなる。読まずに死ぬのはもったいない。 同時に、読み終わった本を壁に向かって力一杯投げつけたくなる。ふざけるなこれでてめえらのしたことをわずかなりとも帳消しにしたつもりか! と絶叫…

要約はできない。全文読むべし《百年の孤独》

長い歳月がすぎて銃殺隊の前に立つはめになったとき、おそらくアウレリャーノ・ブエンディーア大佐は、父親に連れられて初めて氷を見にいった、遠い昔のあの午後を思い出したにちがいない。 冒頭から引きこまれる、コロンビアを舞台としたノーベル文学賞受賞…

父と娘の介護記録『週末介護』

岸本葉子さんは「やわらかく知的なエッセイを書くひと」といわれるけれど、大賛成である。彼女の本を最初に読んだのは、『はたらくわたし』というエッセイストの仕事日記だったが、肩肘張らない、無駄に力が入っていない、やわらかい雰囲気の文章がとても好…

まる子の人生こんなものさ『さくら日和』

昨年永眠されたさくらももこさんは、代表作『ちびまる子ちゃん』『コジコジ』のほかに、自身が「成長したまる子のお話」という位置付けでエッセイを多数発表している。 『さくら日和』は、さくらももこさんの離婚後初めて発表したエッセイ集で、冒頭に離婚報…

パライバ・トルマリンが欲しくなる『ももこの宝石物語』

さくらももこさんが去年永眠された。 『ちびまる子ちゃん』を読んだのは小学生の頃。まる子が給食の塩もみ野菜をきらって「バッタだってもうすこしいいもの食べてるよ」と言いながら残したところがかわいくてほのぼのしていた。 さくらももこさんはエッセイ…

タイトルがブラックジョークにしか見えない『弥栄の烏』

悲しみながらもぞっとする結末。「弥栄」とはますます栄えるという意味だが、全部読み終わったあとにこのタイトルを見ると、ブラックジョークに見える。 本書は八咫烏シリーズの六作目にして、第一部完結篇。舞台は八咫烏が支配する山内と人間界とを行き来す…

ルールの抜け穴に落ちたとき『黄昏の岸 暁の天』

本作の主題はきっとこれ。 「絶対者が定めた、逆らえば死罰が下る〈理〉に支配されながらどう生きるか」 私たちはさまざまな法規制や社会規則に縛られながら生きている。人間社会がうまく回るためにはルールが必要だからだ(殺人が犯罪にならない社会を想像…

少年の成長する音『風の海 迷宮の岸』

小野不由美先生の十二国記シリーズはかねてより好きだ。 さまざまな人々が登場する群像劇だが、中心となるのは二人。そのうち中嶋陽子の物語は読破したものの、もうひとり、高里要の物語はきちんと読んでいなかった。 12月に入り、本編最終作となるはずの原…

神の世界に迷いこんだ人間『玉依姫』

八咫烏シリーズの五作目。舞台は八咫烏が支配する世界から人間界に移る。普通の人間である志帆が、山内村に住まう伯父を訪ねるところから物語は始まる。 村総出で歓迎された志帆だったが、伯父が志帆を呼び戻したのは、山神の生贄にするためだった。なすすべ…

兄と、弟と、父親の陰《熊と踊れ》

いつも参考にさせていただいているブログ「わたしが知らないスゴ本は、きっとあなたが読んでいる」の中の人が選ぶ極上の犯罪小説《熊と踊れ》を読んでみた。 極上の犯罪小説『熊と踊れ』: わたしが知らないスゴ本は、きっとあなたが読んでいる この本はただ…

金もうけこそこの世の正義『虚栄の黒船-小説エンロン』

エンロン。アメリカのエネルギー会社であり、2001年に当時最大の簿外債務隠蔽が明るみに出て倒産したことで、コーポレートガバナンスで必ず話題に出るようになった会社。この会社で起こったことを、十数年間の国際金融経験があり、のちに小説家に転身した著…

なんなんだ、この主人公は?《オープン・シティ》

いつも参考にさせていただいているブログ「わたしが知らないスゴ本は、きっとあなたが読んでいる」で紹介されたスゴ本《オープン・シティ》を読んでみた。 信頼できない読み手にさせる『オープン・シティ』: わたしが知らないスゴ本は、きっとあなたが読んで…

珠玉のエッセイ集『倒れるときは前のめり』

有川浩はとても好きな作家のひとりだ。どう紹介したら有川浩ファンじゃない方がこのエッセイ集を読みたくなってくれるのか、頭をひねらせるのもまた楽しい。 このブログは私の読書記録をつけるために立ち上げたが、面白い本にどんどん出会うにつれて、またほ…