コーヒータイム -Learning Optimism-

本を読むということは、これまで自分のなかになかったものを取りこみ、育ててゆくこと。多読乱読、英語書や中国語書もときどき。

改定新版 藤巻健史の実践・金融マーケット集中講義 (藤巻健史著)

 

[改訂新版]藤巻健史の実践・金融マーケット集中講義 (光文社新書)

[改訂新版]藤巻健史の実践・金融マーケット集中講義 (光文社新書)

 

 

前半はとても分かりやすく、後半でやや苦しくなるが、手元に置いて何度も読み返したい金融入門書。著者は1985年に米モルガン銀行に入行後みるみる実績をあげ、東京屈指のディーラーと呼ばれた。そんな著者は自分のことを「私は世界最大のリスクを取ることを許された」と表現する。ディーラーとしてこれ以上の信頼付与はないのだろう。

さてまず基礎の基礎。安く買い、高く売る。以上。

ではなにを売るか、いつ売るか、誰に売るか、幾らで仕入れられるか、幾らで売るか。ここが金融商品によって違う。

この本に登場する金融商品のうち、大部分は実はいわゆる形のないもの=契約・権利だ。形のあるもの=国債、外貨、株券などを、ある価格で、あるタイミングで、ある取引相手に売る契約をする。あるいは売ってもいい権利を買う。前者は先物取引、後者はオプションだ。

また、1年先物を売り買いすることをヘッジという。ヘッジファンドのヘッジだ。

先物取引にはさまざまな効果がある、と著者は述べている。一年後にまとまったドルを受け取る会社があるとしよう。為替変動リスクを取りたくないその会社は、さっさと銀行に行って、一年後にドルをこの価格でこれだけ売るという約束(契約)をしてしまう。そうすると一年後円高になっても会社が損することはないし、仮に一年後円安が進んでいればリスクをとった銀行側のもうけになる。実際にドルが入るのは一年後だから、その場では契約を交わすだけで、ドルの実物は必要ない。

ではどうやってもうけるか。ヘッジファンドはこのようなドル先物を大量に買い、一年後円安(すなわちドル高)であれば手に入れたドルを売るのだ。仕入れたドルの値段は一年前の契約段階ですでに決まっている。その後ドル高になれば、仕入値よりも高く売ることができる。

さらにいいのは、契約段階では売り買いの約束をしただけでお金のやりとりは発生しない。会社にドルそのものが入るのは一年後だからだ。一年後会社がドルを持ってきて、ヘッジファンドがそれを買い取る時点で、ようやくお金のやりとりが発生する。

このようにして、著者は為替先物、債券先物金利スワップ、オプションなどを扱っていてもほとんどお金を使わなかったという。これらはすべて契約だけだったからだ。これらの金融商品はお金を生み出すが、ゲームのルールに従えばそれ自体にお金があまり必要ない。最初にゲームのルールを考えた人間は、きっと希代の錬金術師だったに違いない。

 

(2018/03/18 追記)

改めて読んでみると、とてもわかりやすくていい本だと思う。初読時は金融知識がほとんどなかった上、流し読みだったから、たとえば以下のように本質をつくことがさらりと書いてあることに気を留めなかった。

債券先物市場というのは金融論の教科書で読みますと、「ヘッジとして非常に重要である」などと書いてあります。確かにヘッジにも使います。でも債券先物市場が重要なのは、日本の長期金利を決める一番の基にあるという点なのです。

プロトレーダーとして説得力があり、モルガン・スタンレーでの経験談として聞くのも面白い。金融知識の復習をするときに読み返したい。