コーヒータイム -Learning Optimism-

本を読むということは、これまで自分のなかになかったものを取りこみ、育ててゆくこと。多読乱読、英語書や中国語書もときどき。

【おすすめ】段階的なアプローチが分かりやすい 無理せずに勝てる交渉術 (G・リチャード・シェル著)

 

段階的なアプローチが分かりやすい 無理せずに勝てる交渉術 (フェニックスシリーズ)

段階的なアプローチが分かりやすい 無理せずに勝てる交渉術 (フェニックスシリーズ)

  • 作者: G・リチャードシェル,G.Richard Shell
  • 出版社/メーカー: パンローリング
  • 発売日: 2016/10/15
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
  • この商品を含むブログを見る
 

 

交渉術についての本、3冊目。

1冊目を読んだときは交渉術について馴染みがなく、読むのに時間がかかった。2冊目で交渉術のさまざまなアプローチを紹介しており、それを読み通したことで自分の中に土台ができてきた感覚がある。

この3冊目の特徴は、交渉者自身の性格にあった交渉スタイルを選ぶようすすめていることだ。おとなしく控えめな性格の人に、交渉の席で大声で怒鳴るようにしゃべれば相手を圧倒できますなどと教えても逆効果だ。

著者は交渉スタイルとして「競争型」「問題解決型」「妥協型」「順応型」「回避型」の5つをあげている。ちなみに競争型の例としてはかのドナルド・トランプ氏が挙げられている。

 

3冊読んできて気になったのは、いずれの本でも「人間は〜するものだ」と述べて、それを交渉にうまく組みこむことをすすめていることだ。例えば交渉の席でAが譲歩をしてBがそれを呑んだら、BもAになんらかの寛大さを見せたくなるものだし、そうするのが交渉の原則だという記述がある。

だが、私はそうとは限らないと思う。テーブルの向こうの相手が、ともかくこちらから何かを得ることしか考えておらず、こちらが譲歩したらもっと欲しくなるだけ、という人間であったならどうだろうか。相手がこちらの譲歩を借りだと認識してくれる、という考えそのものが、時には現実の交渉にそぐわない。

こういう状況は、交渉者同士の間に立場の差があるときに発生しやすいと思う。どちらか片方が、自分が圧倒的優位にあると思えば、譲る気など出てくるわけがない。交渉術の前に、まずはお互いを対等な立場だと思えるような顔触れにすることもまた肝心だ。

 

(2018/03/20 追記)

一度目にこの本を読んでから半年以上経つが、当時書いた読書感想をみて、ずいぶんとひねくれた読み方をしたと苦笑いしている。素直に読めばとても面白い交渉術の本なのに。

最近思うのは、ものごとは自力では45%程度まで完成させることができる。だが合格ラインに達するのは難しい。コミュニケーションと情報交換で協力を得ることで60~70%まで完成させることができる。ここでようやく合格ラインが見えてくる。だが完成度を90%まで引き上げるには、ネゴシエーション、交渉が不可欠になる。

数字は私がなんとなく入れたものだから人によって違うだろうが、順番はこの通りだと思う。著者も似たようなことを述べている。

協力的なコミュニケーションを慎重に交わすことで、交渉は進む。たいていは「準備」「情報交換」「実質的な取引」そして「契約成立」という4つのステップを踏むことになる。

 

一方で、交渉とはテクニックだけでなく人間関係構築なのだ、ということもこの本を読み直す中でしだいに思い出されてきた。忘れていた大切なことを思い出させてくれるのも、素晴らしい本を何度も読み直す醍醐味だと思う。

私の顧客で細かいことまでいちいち確認したがり、なかなかOKを出さない人がいた。ある午前中、顧客とざっくばらんに話す機会があった。そこで分かったのは、その顧客は私のチームに強い不信感を抱いていることだった。少しでも複雑な業務になればすぐに間違いや見落としをする、というのが、彼が抱いている印象だった。この顧客に、重箱の隅をつつくような確認をやめてほしいと言っても、聞き入れられないのは至極当然だ。

このような事態を回避すべくチームのやり方を見直すのは当然として、どうすれば人間関係や信頼関係を築けるのか、本書にヒントがある。

では、交渉相手との間に信頼関係を築き上げ、維持していくための秘訣とは何だろうか。それは人間の行動を左右する、単純にして強力な「相互利益の原理」である。好意には好意をもって返すことが、互いの利益になるという原理だ。

 

嬉しいことに、またほっとすることに、交渉術を学ぶためにこれまでのやり方を放棄しなければいけないわけではない、ということを著者は最初にことわっている。

交渉術を学ぶ前に、鏡に映る自分自身をしっかりと見つめることから始めよう。最も自然で、どのような話し方が心地よいのか。ゴールを達成するために、これまで築き上げてきた効果的で戦略的な技術を、あなたはどのように使うことができるのか。あなた自身の本当の強さと才能を認識してこそ、あなたは最高のネゴシエーターになれるのだ。

これも最近思うことが多いが、交渉方針にはネゴシエーターのこれまでのやり方や性格や価値観が色濃く反映されるが、とくに価値観に関わることでは「交渉相手を説得することはできない」と割り切ることこそ効果的だ。変えられないことを変えようとするのにむだな労力を費やすことなく、変えられることに集中出来ることが重要だ。

まずは交渉相手に語るだけ語らせて、その人が変えないであろう価値観をみつけてから、それ以外の部分でお互いどのように歩みよれるか、問題解決の道筋をさぐる。

交渉相手の話にじっくりと耳を傾けて、真意をさぐるだけの忍耐力をもつことは強みだと思う。そうすれば何気ない一言に本音が出る。それを逃さず記憶しておき、参考材料として、交渉相手の真意を読む。

「人間関係が好きではない」

「年取ってからもこのままはいやだ」

愚痴のような一言に案外真の価値観がもれるものだ。