コーヒータイム

日々読んだ本の感想。時々日常。

「非対称情報の経済学 -スティグリッツと新しい経済学-」(藪下史郎著)を読んだ

この本は、これまでのいわゆる伝統的経済学では説明が難しかったが、実際には大変よく見かけることを説明出来る新しい経済学理論を紹介している。論理展開が多かったため、経済学理論の基礎知識があまりない私にとっては読み進めることがかなり難しかったが、面白い考えるヒントをいくつか得ることができた。

伝統的経済学のいわゆる需要供給曲線などのモデルは、①商品の同質性、すなわち違う会社が売り出す商品間に違いはない、②情報の完全性、すなわち売り出されている商品についての情報が完全に知られており、③所有権、すなわち商品が誰のものであるかはっきり定義でき、所有権の移動についてもはっきりルールが決まっているーーこのような前提をもつ。

どれも現実にあるとはとても言えない前提であるが、この本でとくに取り上げられているのは情報の非対称性だ。市場では情報が不完全・非対称として、市場がどのように機能するかを解析する。

ここで得られるのは伝統的経済学では説明出来ないが、直感的に現実によくあると思われる、さまざまな経済現象への説明だ。例えば著者が例にあげた保険市場では、保険会社は加入者の完全なる情報を持っているわけではない(持病などに加え、運転が乱暴などのくせ)。このため保険会社は、すべての加入者が同じリスクをもつと仮定して保険料を決める。だが、実際にはふだんから運転が荒い人の方が、交通事故で保険料を受け取れる可能性が高いがために、平均化した保険料を払うのはある意味で得になる。

また、彼らが払ってもいいと思う保険料は安全運転の人々より高い。このため、保険料を引き上げると安全運転の人々が保険に加入しなくなり、運転が荒い人々の割合が高くなる、「逆選択」という面白い現象が生じる。

さらには、保険に加入することによって、加入者がそうでない場合と異なる行動をとったり、本来期待されるように行動しなくなることがある。保険があることに安心して、事故を起こさないように努力しなくなるのだ。この指摘は心理学にも関わると思うが、これもまた面白い現象だ。