美術について新聞に連載されていたエッセイをまとめた一冊。美術を生み出すとき、求めるときのさまざまな欲望に光をあてている。西洋で静物画に食べものが多く見られるのは、食糧が乏しかった時代にそれを見て満足感を得るためでもあったとか、博覧会に落選した画家がお金をとって絵を展示したのが世界初の個展であったとか、なんとも微笑ましく人間臭いエピソードが多く紹介されている。
この本を読んでいると、芸術家とは自分の心の赴くままに創作し、金などという俗物には興味をもたないものだというイメージがだんだんかすれていく。著者に言わせると、孤高の芸術家もいただろうが、彼らの作品はほとんど残らないのだ。