コーヒータイム -Learning Optimism-

本を読むということは、これまで自分のなかになかったものを取りこみ、育ててゆくこと。多読乱読、英語書や中国語書もときどき。

戦略的ストーリー思考入門 (生方正也著)

筋道立てて説明しなさい、という言葉をよく聞く。これまで自分なりに工夫して分かりやすく説明してきたつもりだが、実はまだまだ工夫の余地がある、と教えてくれた一冊。

著者によれば、ストーリー思考とは「身近な題材や経験をストーリーの構成に落としこみ、自分の考えを相手に伝え実現に向けて進めていくための技術」だ。ここでポイントとなるのは「伝えること」「実現に向けて進めること」。

「伝えること」はまさに分かりやすい説明に求められるものだ。ストーリーといえば小説や映画を思い浮かべてしまうが、自己紹介、商品紹介、提案書、計画書、およそ筋道立てて説明しなさいと言われることすべてに使える。一方「実現に向けて進めること」だが、他人からのサポートを受けるために、他の人が考えたり行動に移したりできる「余地」が必要だと著者はいう。そうした「余地」を与えるのがストーリーだ。

この本ではストーリーについて九つの原則を紹介している。いずれも、小説、映画などで、また日々の会話の中で、一度は触れることがあったはずで、無意識のうちにすでに使っている原則もあるはずだが、改めて原則として見せられればなるほどと思う。

私の場合、原則2「はじまりとおしまいを意識する」、原則4「逆算思考」、原則5「成果物を組み立てる思考」、原則6「難所想定の思考」を特に意識した方が良さそうだ。伝えたいことを決め、それが受け手の印象にぴたりと重なるような「おしまい」を決め、そこから「はじまり」をどうするか考える、という作業は、やり方がわかるとなかなか楽しい。

かのハリー・ポッターシリーズも、J•K•ローリング氏が最初に書き上げたのは、実は、一番最後の章だったという。全七巻のシリーズが完結するまで、この最終章は厳重に金庫に保管され、ローリング氏以外誰も内容を知られないようにしたという。これこそまさに「おしまい」からストーリーを組み上げていった、すばらしい例だ。

 

(2018/04/05 追記)

読み返してみれば、ほかのことにも気づく。

  原則4「逆算思考」

  原則5「成果物を組み立てる思考」

  原則6「難所想定の思考」

これらは本書では「これからストーリー」を組み立てるための思考原則だが、ビジネスでとても役立つ「シナリオ・プランニング」の考え方にも通じ、さらにはなじみのない仕事に取りくむときの思考方法にも使える。

 

数年前私は、これまであまり経験したことがない業務に突然放りこまれた。

その時私がどうしたか。

まずどんなものを成果物として完成させればいいのか、常識を総動員して想像した(例えば、ある品物を調達するのならば発注書を作らなければならないだろう)。次に、その成果物にどんな内容があればいいか、これまた常識を総動員して考えた(発注書ならばしっかりした仕様がなければならない)。

ほしい成果物とその内容が分かれば話は速い。【逆算思考】【成果物を組み立てる思考】の出番だ。経験豊富な人をみつけ、自分が詳しくないことを素直に認めたうえでとにかく質問をぶつける。最初は的外れであっても、徐々に成果物を組み立てるためにやるべきことがはっきりしてくる。時には自分なりに草案をつくり、批評してもらうのもいい。そのうち批評されたり注意されたりすることが多い場所が見えてくる。【難所想定の思考】である。

こうすることで、私は自分がこれからするべき「これからストーリー」ならぬ「これから行動シナリオ」をつくりあげた。あとは行動するだけ。もちろん壁にぶつかれば修正しながら。とても大変だったが、またとない経験だった。なによりなじみのない領域でもそれなりに仕事を組み立てられる自信がついた。