「努力や勇気ある一歩を踏み出したとしても、目的や着地点への方向性がなければ(その努力や行動の結果は)不十分なものになるだろう」(J.F.ケネディ)
本書の著者は、このメッセージをこそ伝えたいという。
統計、ビッグデータ、ディープラーニングなどの機械学習。これまでなしえなかったさまざまなデータ処理理論が時代の寵児のごとくもてはやされており、人工知能が人間の代わりになる日も遠くないという評論も珍しいことではなくなった。
だがこの本を読むと、それだけでは不十分と分かる。なぜなら、データ分析は最適な意思決定をするための手段だからだ。データ分析の目的を決めるのも、そのための方向性を示すのも、出てきたデータ分析結果を現場業務に落としこんで利用するのも、人間にしかできないからだ。
この本はデータ分析をし、事象のばらつきを見抜くための基礎知識をわかりやすく解説している。著者が挙げる、理解しておくとよい八つの解析手法は、要約統計量、ベイズ確率、相関分析、K-means法、協調フィルタリング、分散分析、重回帰分析、ロジスティック回帰分析だ。(私は大学で統計解析の単位を落としているくらいなので、このうち半分も聞いたことがないが)
だがこの本のすぐれているところはそれだけではない。プロジェクトを成功させるための方法論も書いている。著者が力を入れて述べているのは、データ分析は目的をもって、解決すべき経営課題をはっきりさせた上で行うべきであり、データ分析の結果出てきた提言を会社業務に反映させるためには、人事評価制度の改訂や組織再編にまで踏みこむ必要があることもしばしばである、ということだ。当然経営陣の理解と決断、トップダウンの遂行、現場の理解と行動が必要になる。これらはすべて人でなければできないことだ(在庫管理ロボットに指示するだけというケースも稀にあるかもしれないが)。
このため、たとえビッグデータやディープラーニングがどれほど発達したとしても、必ず最後は人が関係することになる。それを忘れては、経営陣や現場の理解がえられず、どんなすぐれたデータ分析結果も生かすことはできない。著者が言いたいのはそういうことだ。