合理性とは「すでにある理屈に合う」ことだ。一方イノベーションとは「この世にないもので、みんなが(無意識に)欲しいと思っていたを作り出す」ことだ。合理性からイノベーションが生まれないのはこれだけでも明らかだ。
とはいえ、ルールを無視すればいいわけではない。著者はこういう。
逆説的ではあるが、合理性を超えるためには合理性を踏まえることが必須条件である。ここが、合理性を超えることと無謀との違いである。
自分がやろうとしていることが従来の理屈では説明できないとわかった上で、なおそうすることにメリットがあると信じるからこそ動く。そこにイノベーションが生じる。「従来の理屈に従っていたのではほしいものが得られない」と確信した時とも言える。そう判断するにはまず従来の理屈を知っている必要がある。
この本は、しかし一方で、そういう非合理的なビジネス判断をするのがとても難しいことも述べている。
最もいいのはカリスマ性のある創業者が強い発言権をもっている会社だ。創業者であれば多少無茶も言えるし非合理的な決断もくだせる。
だがこれが雇われ社長だったらどうだろう。さらに株式会社で上場企業であればどうだろう。株主に、合理的でないことを納得させるのは難しいし、失敗すれば矢面に立たされる。そういう状況で非合理的な決断など下せるだろうか。
この点についての著者の記述は歯切れが悪い。創業者であれば…ということが何度か述べられる。そうでない会社がどうやって非合理的な決断をしてイノベーションを起こせるか、仮説を立てることすら難しいのだということが、はからずとも伝わっていた。