コーヒータイム -Learning Optimism-

本を読むということは、これまで自分のなかになかったものを取りこみ、育ててゆくこと。多読乱読、英語書や中国語書もときどき。

ニュートレーダー×リッチトレーダー 株式投資の極上心得 (スティーブ・バーンズ著)

この本は「金持ち父さん貧乏父さん」に似た形式をとっている。新米トレーダーが近所に住む金持ちトレーダーを訪ね、彼から色々教えてもらいながら自分のトレーディングシステムを作り上げるまでの過程を小説風に書いている。

この本でとりあげている「ダーバスシステム」はトレンドに沿って取引するというとてもシンプルなものだ。価格の上抜けで買ったら上昇トレンドにある限り保有を続け、上昇トレンドが破られたら売る。だが株保有の感情的、心理的壁のために、実際には難しい。この本にも新米トレーダーの心理的葛藤、取引したいという欲望、損する恐怖、それによる判断の過ちが描写され、心理的原因のために最初に決めた取引ルールを破ってはならないと繰り返し述べている。それゆえこの本は自己啓発や自己鍛錬のための本でもある。

この本での味わいある言葉をいくつか紹介しよう。

取引システムを作ることの本質は、トレンドがいつ始まり、いつ終わるのかがわかるシグナルを出させることだ。

感情やその場の意見ではなく、因果関係とその効果に基づいて下した決定なら、その決定に自信を持たなければならない。

ストレスをコントロールする一番良い方法は、自分が制御できる範囲を一歩一歩広げ、新たな状況へと自分を成長させるということだ。

忍耐はただ何もしないことではない。それは、自分がなにを欲しているか知っており、正しいタイミングで行動を起こせるということだ。

人生において、何か決定する前に必ず、「何を失うことになるか」を自分の胸に真剣に問いかけるべきだ。

 

一方で。私には、この本が人工知能トレーダーの設計基本仕様書にも見えた。

この本ではトレンドを読み取るためのすぐれた指標を紹介し、良い取引システムを作り上げたあとは心理的葛藤にかまわずそれに従えば利益を出すことができると述べている。これはまさに人工知能の得意分野ではないか。

設計された、あるいは機械学習により学習した指標がある傾向を見せれば、ある取引をするかどうか人工知能が判断する。欲望やら恐怖やら期待やらで誤ったりルールを踏み外したりすることはなく、ルールに従い、成果に応じて学習し、システムの精度を上げてゆく。

いずれ囲碁や将棋のように、人工知能が人間のトレーダーに勝つ日が来るのではないか?  この本を読み終えたとき、そんな予感がした。