コーヒータイム

日々読んだ本の感想。時々日常。

「なぜ会社は変われないのか」(柴田昌治著)を読んだ

小説ながら実際の会社再生体験に基づいているため迫真でありディテールがリアルという面白い本だ。500ページ近いという長さながら、小説にありがちなドラマティックな展開があまりなく、どの場面を切り取っても会社勤めであればありありと想像できるようなありふれた光景が広がる。

逆に言えば、想像できない人にとってはきっと退屈に感じるだろう。読み手を選ぶ本だ。

 

物語はヨコハマ自動車部品という架空の会社(ご丁寧に巻頭に組織紹介と部署ごとの登場人物一覧がある)で、開発管理部開発管理課の瀬川俊一が「開発だより」に投稿した文書が巻き起こす波紋から始まる。「社員の力で会社を変えよう!」と題されたその文書は、社内に口ばかりの評論家体質の社員が多いこと、会社や他部署に不信感を抱く社員が多いこと、特に経営者や企画・人事部門への不信感が強いこと、会社を変えるには経営陣が自ら動いてみるべきであり、社員が自分から会社を変えようとするべきだ、と率直かつ赤裸々につづられていた。

矛先を向けられた経営陣がいきり立つ一方、よく言ったと社内反響もかなりあった。瀬川は経営会議で説明させられるが、意外にも伊倉社長が文書内容にある程度理があるとして処分なしとなった。

瀬川の働きで、社外の長野と原島コンサルタントに招いて、会社の風土改革がきしみ音を立てながらも少しずつ動いていく様は、まるで実際の会社内でその場に居合わせているかのようにリアリティをもって描写されている。つまり、今まで色々やってきたけど成果が上がらなかったから今回もどうせそうなるんじゃないのと冷めており活動参加にも消極的な社員、この忙しいときに効果があるかもわからない研修に人を出せるかとにべもない部長課長、活動内容をいちいち報告させてはどんな意味があるんだと否定的で、短期間に目に見える成果が上がらないとさっさと終わらせろと圧力をかけてくる上役ーーである。

瀬川達が採用したのはフリーディスカッション、のちに「まじめな雑談」と呼ばれるようになる方法だった。二泊三日の研修でさまざまな部署から社員を集め、自己紹介、お互い会社現状について考えていること、などをとりとめもなく話す。このフリーディスカッションのキーワードは「テーマを固定しない」「成果物提出を求めない」ことだ。そもそも他部署との交流があまりないのだからまずは自己紹介に時間をかける。会社現状についてはしばらくはネガティヴな話に終始するが、最初の成果は、社員達が、会社内に同じことを考えている仲間がいると知ったことで、しだいに自発的で前向きな話をするようになったことだ。

部課長クラスを動かす、参加者が多すぎて責任所在が曖昧になっていたのを、責任者を決めてその人が最後まで面倒を見る仕組みにする、「まじめな雑談」を通して情報交流が生まれる。ありふれた会社光景の中で、年単位の時間をかけながら少しずつなにかが変わっていく。小説として読むぶんにはまどろっこしくて展開が遅いと感じるが、現実の会社組織、ことに大会社ではもっと遅いのだろう。