コーヒータイム

日々読んだ本の感想。時々日常。

「悪人(下)」(吉田修一著)を読んだ

上巻を読んだときは街灯に沈む夜の街、闇の中に沈む峠が作品全体のイメージだったが、下巻を読み終わると、そこに骨の髄まで凍てつくような冬の寒さが加わった。

保険外交員の石橋佳乃殺害事件で、第一容疑者となった増尾圭吾が逃亡した。一方、土木作業員の清水祐一は、しばらくは普段通りの生活をしていたが、そのうち出会い系サイトで知り合った衣料品店で働く馬込光代と連絡を取りはじめる。増尾名古屋市内で捕まってまもなく、祐一は光代に告白する。自分が石橋佳乃を殺したと。あの冬の夜、拉致されたって警察に言ってやる、誰があんたなんか信じるとよと叫ぶ佳乃に馬乗りになって首を絞めたと。光代は自首しようとする祐一に言う。一緒に逃げてと。

祐一はかつて母親に置き去りにされた。29歳になりながらつきあう男もいない光代は、やっと出会った自分を愛してくれるかもしれない男と離れることを拒んだ。底知れない淋しさを抱えた二人はそのまま逃避行に入った。

物語の終盤、それぞれが凍りついたように動かない現状を変える行動に出る。殺された佳乃の父佳男は、娘の葬式以来実家の床屋を開店できずにいた。祐一の祖母房枝は祐一の帰りを待ちながら、高額な漢方薬販売契約を無理矢理結ばされ、昼となく夜となくかけてくる恐喝めいた電話に怯えていた。光代と祐一はただ逃げていた。その現状を打破すべくそれぞれが動いた。そして中でも祐一は、突拍子もない行動を選んだ。

その行動を選んだのが祐一の本心なのか、そうでないのか、物語中では多少述べられるものの、解釈はあえて読者にまかされている。

「あの人は悪人やったんですよね?」

最後の問いは、読者に向けられているように思う。

 

私は、祐一は悪人だと思う。人一人殺したからだ。ただし佳乃に対して悪感情や殺意があったというより、はっきりとした殺意がなかったにもかかわらず佳乃を殺害したという点で、理解しがたいし、そここそが恐ろしい。