コーヒータイム -Learning Optimism-

本を読むということは、これまで自分のなかになかったものを取りこみ、育ててゆくこと。多読乱読、英語書や中国語書もときどき。

OUT(上) (桐野夏生著)

 

OUT 上 (講談社文庫 き 32-3)

OUT 上 (講談社文庫 き 32-3)

 

 

読み進めるとひどく息苦しくなってくる小説だ。登場人物が希望を抱くことができない状況の中でもがいており、今にも窒息しそうになっているせいかもしれない。ねっとりと綴られる小説の中の情景が、夏夜の湿った熱気のようにまとわりついてくる気がする。

物語は弁当工場の深夜勤務で働く四人の女性を軸に展開する。ベルトコンベヤーを流れてくる弁当容器にごはんを盛る係、唐揚げを載せる係、シールを貼る係……ひたすら同じことの繰り返しで心身ともに過酷で、なにかの能力が身につくこともなく、ただ時給が少しいいだけの、人が機械のように働く職場だ。

香取雅子。男性社員と女性社員の待遇差改善を求めたために信用金庫の職を追われ、傷ついたあまりに経理能力を生かせない弁当工場での夜勤を選んだ。一人息子の伸樹は高校退学後口をきかなくなり、アルバイト以外は引きこもり状態。夫の良樹は助けにならない。

吾妻ヨシエ。夫に先立たれ、寝たきりの半身不随の姑の介護に追われ、夜勤も加えれば一日に切れ切れの睡眠を六時間程度確保するのが精一杯の生活。小さく古い家屋から引越す金もない。上の娘の和恵は高校中退で男と駆け落ちしたが金をせびりに来るばかりで、下の娘の美紀は母親の苦労を見て見ぬふりしている。

城之内邦子。見栄張りで贅沢を好み、外車やブランドバッグなどを後先考えずに購入してはローンを組み、多重債務で破綻寸前。内縁の夫哲也と喧嘩したあげくあり金すべてを持って家出され、借金返済どころか生活費にも事欠く状態。

山本弥生。夫の健司は酒と賭け事にあけくれ、給料を家に入れず、弥生のわずかな給料だけで自分自身と幼い息子二人をなんとか食べさせている。あげく健司はホステスに入れこみ、マンションの頭金として貯めていた500万円をすべてバカラで失った。

四人の女性はいずれも厳しい生活の中でかろうじて溺れまいともがいていた。だが山本弥生が夫を衝動的に絞殺することで息詰まる生活が一変する。弥生から相談を受けた雅子は狂気じみた選択をする。健司の死体を解体して処分するのだ。弥生の家から死体を運び出し、雅子の自宅の風呂場に運びこみ、ヨシエを金で頬をひっぱたくように手伝わせ、借金を申しこみにきた邦子を引きこんで共犯にする。膠着状態だった生活にさらなる後戻りできない暗闇が落ちる。明日が見えない。