コーヒータイム -Learning Optimism-

本を読むということは、これまで自分のなかになかったものを取りこみ、育ててゆくこと。多読乱読、英語書や中国語書もときどき。

潜行 -地下アイドルの人に言えない生活 (姫乃たま著)

最初に姫乃たまという名前に触れたときのことは、覚えていない。私はアイドルにあまり興味がない方で、AKB48全盛時代でさえ神7の名前をすべて言えなかったほどだ。その私が地下アイドルに興味を持ちはじめたのは、ひとえに姫乃たまに興味をもったからだと思う。

なんていうか、姫乃たまは「高校時代の友達にいそうな」女の子だ。彼女の文章を初めてちゃんと読んだのは、ネットニュースで目に触れた「姫乃たまの耳の痛い話」だった。この本でも同じだ。そこで描写されていた地下アイドルの女の子達は、アイドルというキラキラしたイメージとはかけ離れた、隣の女の子という印象だった。少し長いけれど、私がその中で最も印象に残った文章を引用する。第17回だ。

グラビア撮影は彼女の得意な仕事でしたが、ソロでの撮影が当たり前だったのに、その頃にはほかの女の子と抱き合わせの撮影が増えていました。さらにセンターだった立ち位置が、横になり、後ろの列になり、後ろの列の端っこになり……。以前の自分と同じポジションに立っている後輩を見つめる彼女に、カメラマンのアシスタントは「そこの白いビキニの子」と呼んだそうです。「いま思い出してもヒヤッとするよ。アシスタントは若い男の子で、人気があった頃のあの子を知らなかったんだよね」とカメラマンは言います。彼女の心の糸が切れた瞬間でした。誰もが憧れるアイドルだった彼女が、名前すら呼ばれない「白い水着の子」になったのです。

彼女達のアイドル生命の一コマを切り出した姫乃たまの文章は、マウンティングもせず自己卑下もせず、同じ目線から地下アイドルの喜怒哀楽を表現していた。それがひどく印象的で、姫乃たまの文章に目を通すようになった。

「耳の痛い話」は、この本にも一部取り上げられている。いきなり枕営業から始まって、破れたパンストを3万円で売る、元トップアイドルが人気凋落して名前さえ覚えてもらえなくなる、パパ活を始める…と、超えられない壁のように立ちはだかる現実を、姫乃たまは丁寧に文章に起こしている。アイドルシーンでの人気発生と人気凋落を、姫乃たまはみつめながら文章におこしてゆく。まるで友達が語りかけてくるような、そんな不思議な魅力にさせられる一冊。