さまざまなビジネス上の人間心理を、実験社会心理学から解きあかそうとする一冊。
なぜ上司は依怙贔屓をするか? なぜ互いに足を引っ張りあうのか? なぜ上司は権限を振りかざすようになるのか? 身近で見る機会がそれなりにある現象を実験社会心理学の実験で再現し、人間の業とも呼べる心理傾向を解きあかそうとしている。
例えばある実験結果から、「社会的に望ましくない点(度合い)が高い時は、その行動から私達はその人の性格を確信を持って決めつけることがわかる。また、最初に「この人はこういう性格だろう」という情報を得ると、後からその人が別の性格をもっていると示す情報が入っても、最初の印象は簡単には変えられず、それどころか後から入ってくる情報は色付けられ、最初の性格を裏付けるものとして認識されることすらある。人は第一印象で決まるとよく言われるが、心理学的裏付けもあるのだ。
(2019/06/01 追記)
改めて読むと、やはりビジネスを越えて普遍的な人間心理に鋭く切りこんだ良い本だと思う。
「あの人は実は欠点がある」という人が、日本では「人間味のある」上司・経営者となる。これは出世したときに嫌われない重要なポイントです。
要するに「アイツはえらそうにしているけれど結局は自分とたいして変わらない人間なんだ」と思いたがり、「自分だっていつかはああなれる」と安心したいのだ。
改めて読んでみると、ここには奇妙な横並び意識がこびりついていることに気づいた。
たとえば同期入社ならば誰もが一緒に昇進するべきだという、現実にはありえない前提が裏にひそんでいるような気がしてならない。そこをひとりだけ飛び級すれば嫌われる。めちゃくちゃデキる人で「アイツは別格だからな」と思える人か、「アイツはあの地位についたけどやっぱり弱みがある、俺が助けてやるか」と思える人でなければ納得しない。しかも弱みを見せすぎると「なんであんな欠点だらけのやつがあんな高い地位に」となるから、繊細なバランス感覚が求められる。
根底にあるのは、強い横並び意識と、そこから生まれる嫉妬だろう。自分より上の人間といるよりも、自分と同レベルか下の人間といる方が居心地良い。これがもはや本能レベルで心にインプットされている。著者らはこれをうまく言い表している。
客観的評価は存在せず、私たちは他人と比較しないと生きていけません。誰と比較するかというと、身近な人と比較する以外ないんです。結局そこに、自尊心、プライド、幸福感などが、凝縮されてしまう。