コーヒータイム

日々読んだ本の感想。時々日常。

チェーホフ『ワーニャ伯父さん』を読んだ

ビジネス書が続いたので文学で息抜き。チェーホフの四大戯曲のひとつで、田舎生活の情景と副題が打たれているものだ。

私はロシア文学をあまり読まない。理由は人名が覚えにくすぎること。例えばこの本のタイトルにもなった主人公「ワーニャ伯父さん」のワーニャは愛称で、本名はイワン・ペトローヴィチ・ヴォイニツキーという。どこに「ワーニャ」の要素があるのかさっぱり分からない。

戯曲はある田舎の領地で暮らす退官した大学教授であるセレブリャコフとその後妻エリーナ、教授の死別した前妻の残した娘ソーニャ、前妻の弟ワーニャと母親マリヤ、屋敷に通ってくる医者アーストロフを中心に進む。ワーニャは領地で懸命に働きながら妹婿である教授に仕送りを続けてきたが、教授とは違い、自分は人生を楽しめないまま年老いてしまったと感じる一方、若く美しいエレーナに恋慕感情をもつ。エレーナは親子ほども年が離れた教授と結婚したことを後悔していないかのようにふるまうものの、心の底では忸怩たる思いがある一方、閉塞的で俗っぽい田舎暮らしに息苦しさを感じている。ソーニャはアーストロフに恋しているが、自分の器量がよくないと思い悩み打ち明けられない。

それぞれの息苦しさを抱えながら、戯曲が進んでいく。終わり方もあまり後味がよくない。教授が領地を売り出したいと口にしたことで激昂したワーニャが拳銃を持ち出し、身の危険を感じた教授はエレーナとともに領地を去る。残されたワーニャとソーニャたちは絶望に耐えて生きていかなければならないことを、「あの世では息がつけることを信じている」と口にすることで受け入れる。

なんという閉塞感、閉ざされた世界であることか。同じ田舎生活でもそれを豊かに細部まで書ききったジェイン・オースティンに比べると、チェーホフの田舎生活はあまりにも息苦しい。最後のソーニャの言葉だけが幾ばくの救いといえなくもない。

「ワーニャ伯父さん、生きていきましょう。長い長い日々を、長い夜を生き抜きましょう。運命が送ってよこす試練にじっと耐えるの。…そしてあたしたちの最期がきたら、おとなしく死んでゆきましょう。...うっとりと微笑みを浮かべて、この今の不幸を振り返るの。そうしてようやく、あたしたち、ほっと息がつけるんだわ。」