「おれはおれをつくったおまえにも嫌われている。だとすれば 、おれに何の恩義もないほかの人間からどんな希望がもらえるというのか?はねつけられて嫌われるだけのことだ。」
哀れで惨めな醜い生き物、主人公フランケンシュタインの手で、納骨堂の骨と動物の血肉を材料に生み出された怪物の言葉だ。
名もなき怪物は人の愛と哀れみと温もりを欲しいと思ったが、あまりに醜い容貌のためそれがかなわないと分かると、絶望感からやがて怒りと憎悪に身をまかせた。欲しかったのはたった一つ、自分を認めてくれる存在だけなのに。
怪物は憎悪のままにフランケンシュタインの弟、友人、妻を殺し、父を死に追いやった。フランケンシュタインは復讐を誓い、怪物を文字通り地の果てまで追った。雪と氷の大地、北極海に浮かぶ分厚い氷の上で、やがて終焉がくる。怪物は、フランケンシュタインの愛する者を殺したことで自分もまた苦しみ苛まれ続けたのだと独白する。
「愛と友情を望んでいたのに、おれはいつもつぶされた。これが不当でないと誰が言える?人間すべてがおれに罪を働いたのに、なぜおれだけが犯罪者呼ばわりされるのだ?...だがおれが悪党であることも事実だ。愛すべき人間、無力な者を殺したのだからな。...人を殺したこの手を見る。どうやって殺すかを考えたときの心を思う。そうしておれは楽しみに待っているのだ。この手が見えることも、自分のたくらみに取り憑かれることもない日が来ることをな。」
怪物には人の心があった。良心があり、喜びと苦しみを認識することができ、自分がしたことを好ましからざることだと判断できる知恵があった。自分がなにを欲しているのか正確に理解しーー共感できる伴侶が欲しかったのだーー、それが得られないことに逆上して罪を重ねたが、それが罪だと認識していた。
ここに怪物の不幸の根源があると思う。醜い容貌に、人の心が宿ってしまったことだ。罪だと認識していなければ、苦しむことはなかっただろうから。