コーヒータイム -Learning Optimism-

本を読むということは、これまで自分のなかになかったものを取りこみ、育ててゆくこと。多読乱読、英語書や中国語書もときどき。

道を継ぐ (佐藤友美著)

この本を手に取ったのはタイトルと表紙が美しかったからで、取り上げられている鈴木三枝子さんという美容師のことは、本を開くまで知らなかった。

髪は邪魔にならなければいいやという考えの私であるが、それでも美容院でカットを終え、鏡を見て、髪が美しく整っているのを見るあの一瞬は喜びを覚える。鈴木三枝子さんはその喜びをお客さまに与えるために、人生かけて美容師という仕事に情熱を燃やし、ステルス胃がんで亡くなる直前まで、サロンに立ち続けた人だ。

いわゆる職人肌というのか、とことん仕事にこだわっていた。卓越した美容師の技術はもちろん、自分自身の服装や化粧に至るまで、サロンに来るお客さまを楽しませるためのもの。あるお客さまが予定日を変えてサロンを訪れることになったとき、たまたま前回そのお客さまが来店したときと同じ服装だった鈴木さんは、休憩時間に服を買いに行き、お客さまが来店する前に着替えたという。

鈴木三枝子さんはサロンのスタッフを母親のように叱咤激励して育てた。感情のままに怒ることはなく、とことん相手の立場に立つ。だからスタッフやお客さまがついてくる。それどころか叱られ自慢をする。亡くなる報せを受けたスタッフは泣きながらお客さまの髪をカットし続けたという。

この本を読んで、こういうとことん踏みこんで部下と向きあう上司がそういえば少なくなったな、と、会ったことがない鈴木三枝子さんに思いを馳せた。