コーヒータイム -Learning Optimism-

本を読むということは、これまで自分のなかになかったものを取りこみ、育ててゆくこと。多読乱読、英語書や中国語書もときどき。

社長復活 ぼくが再起業した理由 (板倉雄一郎著)

 

社長復活

社長復活

 

IT起業家の頭の中を垣間見せてくれるとても面白い本。

著者の板倉雄一郎氏の略歴はこうだ。

  • 高校卒業後、ゲームソフト開発会社の起業、電話会議サービス会社の起業を経て、1991年、3つめの会社となる株式会社ハイパーネットを設立し、サービスを世界に展開し注目を浴びる。栄えあるビジネス賞を総ナメにし、ビル・ゲイツと商談、『日本経済新聞』一面を飾る。
  • 1997年、負債総額37億円で倒産。自らも自己破産をする。著書に、そのときの経験を書いた『社長失格』がある。
  • 2003年以降、投資家として活動。2011年の東日本大震災を機に、再び株式会社シナジードライブを起業し、声のSNS:  VoiceLink (www.vlvlv.jp) を展開中。

著者は根っからの起業家である。ハイパーネット倒産後は再起業まで紆余曲折を経て、一時は鬱状態にもなったが、東日本大震災Softbank孫社長が100億円寄付したのを聞き、金がなければまともに寄付すらできないと思い立ち、さらに「震災前と震災後では間違いなく世の中が大きく変わる。この大転換期を黙って見過ごす手はない」との考えのもと、徐々に鬱状態から脱却する。そして再起業する。

 

起業内容は本書に詳しいから繰り返さないが、スピード感あふれる起業ストーリーは、変化の速いネット時代ならではで読み応えがある。

ここでも著者は「時代を先取りしすぎて理解してもらえない」と愚痴をこぼす。このようなことを口にするオンラインサービスの起業家はかなり多いように私は思う。著者の言葉を借りればこうだ。

次の時代をつくれるのは、ごく一握りの人だけだ。大半の人は、今あるものの修正バ ージョンで生きている。半歩先なら、みんな理解できる。理解できるから、短期的には一番儲かる。

だが、一歩先だと、たいていの人は気がつかないし、すぐには理解できない。時間がたてば、「ああ、こういうことだったのか」とわかるのだが、わかったときには、すべての権利は押さえられている。それがぼくのやり方だ。

 

私がなにより興味をもったのは、本書全体に一貫された著者の起業家としての行動哲学だ。一つ抜き書きする。

親元にいれば「不満」が募る。

親元を出れば「不安」に変わる。

従業員でいれば「不満」が募る。

独立すれば「不安」に変わる。

ぼくは、他人に向ける「不満」を持つより、自分自身に感じる「不安」のほうがはるかにマシだ。なぜなら、自分自身で解決可能だからだ。

自分自身でコントロールできるかどうか。この差は決定的だ。航空機パイロットは墜落事故への恐怖が乗客よりもずっと小さいという。なぜなら操縦桿が自分自身の手にあるからだ。あるできごとを自分自身でコントロールできないとき、人は恐怖と無力感を覚える。逆に、自分自身の努力で変えられるのであれば、そこに希望が生まれる。

そして、天災などを除いて、状況は結構変えられるものなのである。(天災を変えることはできないが、そこから立ち直ることはできるーー東日本大震災の後、被災地の方々はずっとそのことを私達に身をもって教えてくれている) それを思い出させてくれる本だ。