コーヒータイム -Learning Optimism-

本を読むということは、これまで自分のなかになかったものを取りこみ、育ててゆくこと。多読乱読、英語書や中国語書もときどき。

ビジョナリー・カンパニー 時代を超える生存の原則 (ジム・コリンズ、ジェリー・ポラス著)

 

ビジョナリー・カンパニー ― 時代を超える生存の原則

ビジョナリー・カンパニー ― 時代を超える生存の原則

 

経営者だけではなく、従業員、さらには政府機関や非営利組織など、およそ「組織」に関わりのある人達すべてが読むべき名著。

ビジョナリー・カンパニーとは、「ビジョンを持っている企業、未来志向の企業、先見的な企業であり、業界で卓越した企業、同業他社の間で広く尊敬を集め、大きなインパクトを世界に与え続けてきた企業」である。あなたの働く業界のトップランナーを思い浮かべてほしい。

重要な点は、ビジョナリー・カンパニーが組織であることだ。この本で伝えているメッセージの一つは「人間に頼るな、組織に頼れ」だ。スティーブ・ジョブズ死後にAppleが試行錯誤しているように、優れたカリスマ指導者に頼りすぎていた場合、その指導者が去ったあとに成長曲線を描けなくなる危険性がある。一方、しっかりとした仕組みをもつ組織を立ち上げることができれば、立案者が世を去っても、残された会社は成長しつづけることができる。

著者はこれを「時を告げることと、時計をつくることとの違い」と表現している。ビジョナリー・カンパニーが、すばらしい製品やサービスを次々に生み出しているのは、会社が組織として卓越しているからにほかならない。著者の言葉を借りればこうだ。

組織を築き、経営している読者に向けた本書の主張のなかで、何よりも重要な点をひとつあげるなら、それは、基本理念を維持し、進歩を促す具体的な仕組みを整えることの大切さだ。これが時計をつくる考え方の真髄である。

まさにこの通り。

まさにこれが私の今直面している問題だ。

「あることを実行する本人がいなくなったあとも、引き続き実行出来る仕組みを作るにはどうすればいい?」

これは会社経営者だけに限らない。私自身、仕事が人頼りになったときにどれほど厄介なことになるか体験したことがある。私の業務と密接な関わりがあるグループのチームリーダーが突然辞職したのだ。そのグループは大混乱に陥った。彼だけが業務の全体像を把握しており、他のメンバーは彼に言われた業務をこなすのに慣れきっていたからだ。さらにまずいことに、残された業務記録は、整理整頓されているとはとても言えなかった。業務を整理し、前のように遂行出来るようになるまで、実に半年近くかかった。もし、せめて業務記録がきちんと整理整頓される仕組みができあがっており、何をやらなければならないか一目瞭然になっていれば、もっと短期間で業務遂行出来るようになっていただろう。

私が体験したことの規模は小さいが、このことは本書で指摘されている「後継者問題」に繋がる。ビジョナリー・カンパニーは生え抜きで自社の基本理念を深く理解している経営陣を育てる。一方、比較対象となる(業界で二番手、三番手の)会社は、社外から経営者を招くことがあるが、基本理念を理解していないために経営方針がこれまでのものと一貫せず、混乱状態になったり方向性を見失ったりして、気づけばライバルに水を開けられていることが多い。

 

組織や仕組みをつくるにあたって何が必要か?

一番重要なのは一番単純な質問に答えること、「あなたの会社はなにがしたいの?」だ。

ビジョナリー・カンパニーの「時計」の重要要素は、基本理念、つまり、単なるカネ儲けを超えた基本的価値観と目的意識であると著者はいう。例えばディズニーなら「世界中の子供達に夢と魔法を届ける」、メルクなら「医学を進歩させ、人々の生命を維持し、生活を改善する」といったところだ。利益追求はビジョナリー・カンパニーの正しい目的ではなく、正しい目的を達成するために必要なものだ。ウォルト・ディズニーのすばらしい発言が本文中に引用されている。

想像力がこの世からなくならないかぎり、ディズニーランドが完成することは絶対にない。

ここにはディズニーランドの売上達成だの来場者数目標だのはない。

 

ビジョナリー・カンパニーのもう一つの特徴は、一見両立しないことを両立させること。それも中間地点で満足するのではなく、両方をしっかりとこなすことだ。例えば価値観と利益、自主性と管理。

一流の知性と言えるかどうかは、二つの相反する考え方を同時に受け入れながら、それぞれの機能を発揮させる能力があるかどうかで判断される。

理解するのはちょっと難しいが、いずれにしても両立は不可能ではなく、ビジョナリー・カンパニーはみなそれをこなしているというのが著者の主張だ。

 

さて、この本を読んだ私が、明日からなにができるのか考えてみよう。そう思わせてくれる本だ。