コーヒータイム -Learning Optimism-

本を読むということは、これまで自分のなかになかったものを取りこみ、育ててゆくこと。多読乱読、英語書や中国語書もときどき。

30代はキャリアの転機 (小杉俊哉著)

 

30代はキャリアの転機 (NextPublishing)

30代はキャリアの転機 (NextPublishing)

 

この本は1998年出版の処女作『29歳はキャリアの転機』を再版したものであるが、基本的内容は変わらないという。当時書いたときの勢いをそのまま活かしたかったから、というのが理由だが、読んでみてそれがよくわかった。松岡修造ではないが文章自体から熱情がほとばしっている。「これがおれの言いたいことだ!」という勢いが文字になったようだ。前回読んだ『3年後、転職する人、起業する人、会社に残る人』のどこか冷めた表面的な感じとは好対照である。

著者は新卒でNECに入社後、MITに留学して経営大学院修士課程を修了、マッキンゼーでの経営コンサルタントを経て、外資系会社で人事総務部長につき、その後独立して企業の人事・組織コンサルティングを手がける一方、慶應大学特任教授を兼任している。これだけ見れば華やかなエリートコースだが、著者自身は「まわりには学力・経験的にとてもMITに入れないだろうと言われ続けたが、どうしても入りたかったから、がむしゃらに努力してチャンスをつかみ取った」という認識だ。

著者がこの本で伝えたいメッセージは一貫している。「なりたい自分ややりたいことを具体的にイメージし、それに向かっていけ」だ。まわりの環境が自分のやりたいことを阻害するなら、環境を変えてやるくらいでちょうどいい。

たとえば留学について。日本で受験する大学を決めるのとはわけが違う。自分の偏差値で入れそうな大学を上から選んでいこうとしているのなら、その発想から改める。なぜその学校を志望するのか。自分はそこへ何をしに行くのか。卒業後はどうそれを生かすのか。それをじっくりと考えることが大切だ。

たとえば外資系企業で働くにあたって。外資系企業で働くということは、今の会社にいることを他の選択肢の中から選んでいることだ。この選択を毎日やっているといっていい。このあたりでもういいや、このくらいはがまんしてしまおう、というスタンスだとどんどん食い込まれ、ついには居場所がなくなってしまう。外資系企業では上司も会社組織も会社のやり方もよく変わるため、Selfhelp - 自助努力を発揮し、どうやって自分のやりたいことを実現するかを常に考えなければいけない。

 

この本で著者が聞いた素晴らしい言葉が紹介されている。

選ばれた者とそうでないものとの差の小ささ、偶然性を考えると、選ばれた者はそのチャンスを全うする道義的責任がある。選ばれた者はそのチャンスを見事に、完全に生かさなければならない。

 もう一つ、著者自身の素晴らしい言葉がある。

僕は、ビジネスにおいて経験とは、「今まで手の届かないと思っていたことを自分がやってみて、それを何でもない普通のことにしてしまうこと」だと思っている。

どちらも忘れないようにしたい。

今までできなかったことをとりあえず失敗覚悟でやってみる。やってみて致命傷にならない程度に環境を整えてから(体育の授業で跳び箱を始める前に準備体操してマットを敷くようなものだ)、まずはぶつかってみる。まったく歯が立たないことはきっとない。ほんのわずかであってもできることは見つかる。そこを足がかりにして、経験者に教えを乞いながらできる範囲を増やしていく。そうしていつのまにか、これまでできなかったことをごく普通にできるようになる。

社会に出てからの学びはこうあるべきだろう。教科書からではない、先人の知恵と自分の経験から学び、失敗を恐れないことが。