コーヒータイム -Learning Optimism-

本を読むということは、これまで自分のなかになかったものを取りこみ、育ててゆくこと。多読乱読、英語書や中国語書もときどき。

陰日向に咲く (劇団ひとり著)

軽いテイストの小説。5人の"陽に当たらない落ちこぼれ"の人生がほんの一点で交差する群像劇を、5篇の短編小説で書いている。あえて時系列をはっきりさせず、ちょっとしたヒントから読み取らせるのが、なぞなぞを解くようで面白い。

1篇目。主人公のサラリーマンは自由を渇望し、たまたま見かけたホームレスにあこがれて、自らホームレス風の衣装を手作りして公園に寝泊まりするようになるが、ある出来事をきっかけに家に帰る。サラリーマンがホームレス時代、コンビニの廃棄弁当をあさっている時に争ったオタクが2篇目の主人公で、彼はある売れないアイドルの熱烈なファンだった。3篇目の主人公は20歳のフリーターの女性で、とっさについた嘘「カメラマンになるのが夢」をごまかすためにデジタルカメラを購入するが、使い方が分からず四苦八苦する始末。彼女がたまたま出会った男性が4篇目の主人公で、ギャンブル狂いの多重債務者。借金で首がまわらなくなりなんとかして金を手に入れようとするさなかに彼は、5篇目の主人公につながるある人と出会い…。

すべての短編小説の主人公は出会っているが、その出会いはほんの小さなもので、彼らの人生を多少変えるものの、劇的ではなく、その後もそれぞれの人生を生きていく。それが現実を反映しているように感じる。

ある人との出会いで人生が劇的に変わることは、実際にはそんなにないのだと思う。徐々に変わっていく。少しずつあこがれをつのらせて、あの人のように自分もなりたいと思い始めたときに、あるいはあの人と出会ったことで考え方が少し変わったと気づいたときに、劇的な変化への第一歩が踏み出されるのだと思う。

陰日向に咲く』の登場人物たちも、もしかしたらその後の人生で小さな、あるいは大きな変化が生じるのかもしれない。淡々としているが、その後を想像するとちょっと楽しみになる、そんな小説だ。