コーヒータイム -Learning Optimism-

本を読むということは、これまで自分のなかになかったものを取りこみ、育ててゆくこと。多読乱読、英語書や中国語書もときどき。

『ITビジネスの原理』(尾原和啓著)を読んだ

著者はインターネットが一般開放された1993年から、インターネットビジネスが爆発的に拡大していく中、コンテンツを集合させたプラットフォームの開発に関わってきた。そんな著者が見たインターネットのこれまで、現状、これからをまとめたのが本書。

著者はインターネットビジネスを簡潔に表現している。

世界中に散在しているユーザを一か所に集めて、そのユーザを金を出しても欲しいと思っている企業や人と結びつける、マッチングするのが、インターネットのビジネスなのです。

ただしユーザを集めるにはコストが必要で、それはTAC - Traffic Acquisition Costという概念で表すことができる。IT企業を評価するときには、売り上げから必ずTACが引かれる。いかにTACをゼロに近づけることができるかが大きな課題だ。(それにはフリー戦略が有効だと力説するのが、以前読んだ『フリー〈無料〉からお金を生みだす新戦略』である)

ITのもうひとつの効果は、そしてこれこそもっとも価値あるものだと私は思うのだが、タスクを「細切れにして」「いつでもどこでも出来るようにした」ことだ。これによって、全てのタスクをこなすことができなくても、一部だけをこなして、その分の報酬を得られるようになった。

子育て中の人が、一日に二時間だけクラウド上で仕事を受けるのが典型的な使い方だろう。一人一人がこなせる仕事量は小さくても、1000人も集まれば依頼主を満足させるだけの量になる。著者も指摘しているように、「余った時間を活用したいと思う人」「細切れにできるタスクを依頼したい人」をマッチングさせることがキーで、それこそがインターネットビジネスのキーワードだ。

 

一方、日本語を母語とする人が書いた本でよく見るのが、「インターネットビジネスはハイコンテクスト方面に進むべきである」という将来予測である。本書もそうだ。

この将来予測は、しばしば「日本式ハイコンテクストvsアメリカ式ローコンテクスト」「大企業vs中小企業」という対立構図で語られる。おおよその主張は「価格勝負になれば小企業が大資本に勝てる見こみはないが、お客さまとのコミュニケーションを重視し、小企業ならではのきめ細かさとフットワークの軽さで、お客さまに特別な体験をしていただくことで、ビジネスを成功させることができる」というもの。つまり、商品を売るのではなく、物語性、体験、そこからくる喜びや満足を売るという考え方だ。この考え方をアピールして成功した最も有名な例は、おそらく2020年東京オリンピック招致での「お・も・て・な・し」だろう。

私が不思議に思うのは、本当にアメリカはローコンテクストで、規模拡大にしか興味がないのだろうか、という点だ。実はアメリカにもハイコンテクストな側面があるが、それを文章化したものが少ない、あるいは日本語に翻訳されていないだけではないか? という気がする。今はまだこの疑問の答えが得られていないが、いつか、答えてくれるような人や本やウェブサイトに出会うと信じている。