コーヒータイム -Learning Optimism-

本を読むということは、これまで自分のなかになかったものを取りこみ、育ててゆくこと。多読乱読、英語書や中国語書もときどき。

おとなのIT事件簿 (蒲俊郎著)

インターネット時代に法規制がそれに対応出来ていない、あるいはどう対応すべきか意見がまとまっていないという話題はよく聞くが、本書はその中でも身近なケースをたくさん取り上げており、法律用語はやや難解であるものの参考になる。

オンラインショッピング、ポイント付与、ネットショップでの薬品販売など、テーマは豊富だ。例えばポイントの扱い。楽天ポイントやTポイントなど、今や「限りなく電子マネーに近い性格をもつ」ポイントだが、消費者保護のガイドラインはゆるく、一定期間公示すれば規約を変えられる、というのが通例になっている。ポイント有効期間が変更されたことに気づかず、ポイントが大量に失効した場合、法規制の観点からはどう解釈されるか、本書で詳しく取り上げている。

中には法規制ではなく、従業員教育が必要になるケースもある。最近話題にのぼりやすい「炎上」「バカッター」など、飲食店の冷蔵庫に入って自撮りして投稿したり、ホテルに来た芸能人を実名入りでつぶやいたりして拡散され、批判が殺到して勤務先企業の信用が地に堕ちるケースだ。

これらのケースは個人的つぶやきを規制できるものではない (表現の自由侵害にあたるだろう)。本書では「開示した友人以外にも急速かつ無制限に伝播・拡散する可能性をもつという「特殊性」について、徹底して教育することが最も効果的な予防対策」としている。つまりは「友達同士での悪ふざけのつもりだった。こんな大ごとになるとは思わなかった」という言い訳がなくなるように、だ。

ただし炎上目的であえて投稿する人にはもちろん効果がない。親がアクセス数稼ぎのためにYouTubeに子供を泣かせる動画をアップし、児童虐待だと通報されて親権を取り上げられるような事件もアメリカで起きている。この辺の話はこの本に書かれてはいないが、ネット対策は法規制だけでは無理なのが現実で、結局は個人の良心まかせのところが大きい。ただ、その自由度こそが、ネットの魅力に他ならないのが難しいところだ。