イノベーションへの解 利益ある成長に向けて (Harvard business school press)
- 作者: クレイトン・クリステンセン,マイケル・レイナー,玉田俊平太,櫻井祐子
- 出版社/メーカー: 翔泳社
- 発売日: 2003/12/13
- メディア: 単行本
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かなり難解だが読む価値は十二分にある本。
本書の狙いは新成長事業の成功や失敗にかかわるプロセスを考察することだ。イノベーションの成功と失敗は一見ランダムで運任せだが、本書ではそこになんらかの予測可能なプロセスを見いだそうと試み、成長についてマネージャーが下さなければならない9つの意思決定に焦点を絞っている。
意思決定に入る前に、本書ではさまざまな考え方を整理している。
まず著者らは、問題はアイデアではなく、アイデアを形成するプロセスにあるという。アイデアが革新的であっても、中間管理職により事業計画にまとめられる過程で、「これまでの成功事例に似て」「魅力的な既存顧客を満足させる」「市場が大きい」「自分の在職期間中に成果が出そうな」形に容赦なく作り変えられる。だがイノベーションはえてして「これまでの成功事例に似てない」「新規顧客や魅力の少ない顧客を相手とする」「市場が小さい」「いつ成果が出るかわからない」ものだ。
もう一つ大切なのは、イノベーションには「持続的イノベーション」と「破壊的イノベーション」があることだ。持続的イノベーションは従来製品よりも優れた性能をもつ製品を、より要求の厳しい顧客に売り出す。一方で破壊的イノベーションは必ずしもより良い製品ではないが、新しい顧客やそれほど要求が厳しくない顧客に売り出す。大手企業にはこのような新規顧客やローエンド顧客を防御する意欲がほとんどなく、むしろ価格競争が激しいローエンド市場から撤退できてせいせいするとさえ感じる。
ここに破壊的イノベーターが足がかりとするべき市場があると著者らは主張する。破壊的イノベーターは大手企業が相手にしなかった新規市場から入り、ローエンド市場に徐々に進出する。その間大手企業はより上位の市場で一時的に利益を上げる。やがて力をつけた破壊的イノベーターは上位市場から顧客を引っぱり始める。その時、大手企業が顧客を取り戻そうとしてもすでに手遅れだ。
では大手企業が破壊的イノベーションを起こすことは不可能なのか?
著者らの答えは「可能」だ。ただしーー大手企業の従来型組織から独立した組織であれば。
著者らが繰り返し述べているのは、大手企業が合理的だと思ってすすめるものはえてして持続的イノベーション、ないしは破壊的イノベーションを無理矢理持続型に作りかえたものにすぎない。そういうふうに社内的力学が働くのだ。だから破壊的イノベーションを進めようと思うならば、大手企業の判断基準からできるだけ遠ざけておく必要がある。マネージャーにはその覚悟が求められる。
こう書いてみると、大手企業で破壊的イノベーションが起こりにくい理由がよくわかる。これまでうまくいったやり方に合うように社内プロセスができあがっているから急には変えられない。そのやり方が企業文化にまで高められていればなおさら。人間は慣れ親しんだやり方をすぐには変えないものだ。よほどのことがない限り。
逆に言うと、経営者以下従業員まで、このことを知ることこそが変化の第一歩だと思う。
大手企業の業務プロセスや企業文化は従来の市場でうまくやっていけるように作られている。だが市場ではいずれコモディティ化による価格競争が始まり、利益率がどんどん圧縮されていく。生き残るためには新市場に参入しなければならず、そこでは意図的にこれまでのやり方、組織、プロセスを変えなければならない、と。
興味深い内容の本だが、最も魅力があるのは、この本を読み終わったあと、自分なりに続きを頭の中で組み立てることができる点だと思う。
なぜならこの本が出版されたのは2003年だ。(もしかしたらすでに改訂版が出ているかもしれないが) この本では市場の覇者とされている企業が、その後革新的製品により市場シェアを奪われたケースもある。そのプロセスを、この本で取りあげられている破壊的イノベーションのプロセスに照らし合わせることで、続きとなるべき内容を空想できる。
一つ例を挙げると、この本ではブラックベリーを市場の寵児のように書き、アップルなどの企業がブラックベリーに勝てずにいることを述べている。ーー2017年末現在、まさにアップルのiPhoneを始めとするスマートフォンが、ブラックベリーを市場から一掃した。
なぜアップルの破壊的イノベーションが成功したのか。この本のプロセスと照らしあわせて、考えながら読むのが一番楽しい。