コーヒータイム

日々読んだ本の感想。時々日常。

『楽しいプロパガンダ』(辻田真佐憲著)を読んだ

プロパガンダ」という単語を見ると思わず身構える。

著者がこの本の一番最初で述べているように、プロパガンダは 「政治的な意図に基づき、相手の思考や行動に(しばしば相手の意向を尊重せずして)影響を与えようとする組織的な宣伝活動」のことだ。それゆえプロパガンダという言葉は、たとえば洗脳という言葉と結びついて、とても嫌な、本能的な拒否反応を呼び起こす。

だが洗脳は本人に拒否感があればうまくいかないもので、うまくいくプロパガンダはむしろ本人が楽しみ、喜んで受け入れるものが多い。それがこの本のテーマである「楽しいプロパガンダ」、エンターテイメントである映画、音楽、芸術などにちょっとずつ紛れこませるプロパガンダだ。観客はこれらを楽しむうちに、いつのまにかある特定の価値観を刷りこまれる。

 

この本では主に戦時中のプロパガンダや、現代のオウム真理教イスラム国などの狂信的組織が展開するプロパガンダを紹介している。しかし、国家的プロパガンダはもっと巧妙だと思う。

私が一番良く覚えているのは、ハリソン・フォード主演の映画「エアフォース・ワン」。舞台はソ連崩壊後の世界。ソ連復活を目論むテロリストがアメリカ大統領専用機エアフォースワンを占領し、投獄された独裁者の解放を要求する。要求を呑まなければ30分ごとに人質を殺害すると脅す冷酷無比なテロリストたちに、ハリソン演じるアメリカ大統領がさまざまな策略をもって勝利し、無事生還する物語だ。

この映画では正義=アメリカ大統領、悪=テロリスト(なおテロリストらはロシア政権とは区別されている)の図式がはっきり描かれる。悪側は「(投獄された)独裁者を釈放すれば中央アジアは火の海だ」という表現をされ、熱狂的な共産主義者であることをにおわせる演出がなされる。ソ連復活を夢見る独裁者にアメリカ大統領が勝利することで、共産主義者を打倒する正義のアメリカ大統領を強く印象付ける。

当時私達はこの映画を「アメリカ大統領強すぎだろ〜」と茶化しながら観ていた。それでもストーリーはしっかり記憶に残るし、印象的な場面で使われる社会主義の歌曲「インターナショナル」を悪役のテーマだと受け取った観客もきっといただろう。そうして楽しみながらアメリカの価値観に染まっていく。これが「楽しいプロパガンダ」であり、何より警戒すべきものだ。

著者は最後にこう述べている。

「我々は未来の「楽しいプロパガンダ」を防ぐために、過去の「楽しいプロパガンダ」を学び、その構造を熟知しなければならない。そのためには、思考実験こそ最大の武器となるだろう。これが本書の結論である。」