コーヒータイム -Learning Optimism-

本を読むということは、これまで自分のなかになかったものを取りこみ、育ててゆくこと。多読乱読、英語書や中国語書もときどき。

『なぜあの人の解決策はいつもうまくいくのか? -小さな力で大きく動かす!システム思考の上手な使い方』(枝廣順子、小田理一郎著)を読んだ

「人は環境の奴隷である」「郷に入れば郷に従え」といったように、環境が個人の考えに影響することはさまざまなことわざに表現されるが、この本はそれを「システム」と表現して、「システム思考」によって、個人や状況によらない真の原因をみつけ、それを解決するために力を入れるべき「レバレッジポイント」を探るための方法論を紹介している。

著者らはシステム思考のための有料講座を開設しており、この本はその宣伝も兼ねているから、ノウハウのすべてを網羅しているわけではない。

だがこの本で紹介されている「システム思考」だけでもとても役に立つ。特に「問題は人や状況にはなく、構造にある。同じ構造がある限り、個人的性格がどうであれ誰もが同じことをしてしまうものだ」という考え方は、責任感が強く、起こる問題は自分の不甲斐なさゆえだと自分を責めてしまう傾向にある人々にとっては、ある種救いとなるのではないだろうか?

 

まずは著者らがシステム思考について紹介している文章を引用する。

システム思考は 、目の前にあるできごとを単体でとらえるのではなくて、その奥にある時系列パターンや構造、そしてその前提となっている意識や無意識の考え方や価値観を見て、もっとも効果的な働きかけをしようというアプローチです。

「歴史は繰り返す」という言葉の通り、現在起きていることはある時系列パターンのある瞬間のスナップショットにすぎないというのが著者らの主張だ。だから対症療法にすぎないことに力を入れてもなにもならず、根本的解決にはならない。

根本的解決はどうすればいいのか、解析するためのツールがこの本で紹介されるループ図や時系列パターン図といったものだ。これはワークショップ形式で作業すべきもので、著者らはこれらのツールの使い方講座をもつ。

 

著者らの考え方から、今世間を騒がせている、山中教授率いる京大iPS細胞研究所での研究不正問題の構造を説明することもできると思う。

問題を起こした助教授は雇用期限が今年三月末に迫っており、成果を出さなければ継続雇用は望み薄になり、他研究所への転職も厳しくなる。生命系研究はよい研究施設がなければ成果を出すことは難しく(なにしろ生きているものを扱うのだから、適温、滅菌、廃棄物処理、と厳しい条件盛りだくさんだ)、京大iPS細胞研究所を離れたところで研究環境に恵まれるとは限らない。するとますますよい研究成果を出すことができず、よい研究環境を得ることが難しくなる。

こういうシステムのもとで「魔がさした」。

同じ状況にあっても研究不正をしていない研究者が大多数だ、などといった話ではなく、研究不正が発生しやすい構造になっていることが問題だ。放置すればいずれ必ずまた「魔がさす」研究者が現れるから、構造を根本的に変えなければならない。それがこの本の主張だ。