コーヒータイム

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蒼穹の昴(2) (浅田次郎著)

19世紀末、中国。清朝末期。「ラストエンペラー愛新覚羅溥儀の一代前である光緒帝が立ち、悪名高き西太后が政権を握っていたころ。

第2巻は、主人公の一人、梁文秀(リャン・ウェンシュウ)が、同期からある伝説を聞くところから始まる。

頃は大清帝国建立期、後に皇族となる愛新覚羅氏が満州部族を征服して統一を目指していたころ。最後まで抵抗していたのは、葉赫那拉(イエホナラ)という部族であった。追い詰められた部族の長、布揚古(ブヤング)は、いまわの際に呪いの言葉を残す。葉赫那拉の女子が一人でも残れば、必ず愛新覚羅氏を滅ぼし、恨みを晴らすだろうと。

三代にわたり権力を握ってきた西太后は、その葉赫那拉氏の娘であるーー

 

西太后は歴史上ではまごうことなき悪役扱いだ。仇敵の東宮太后を手にかけ、夫の咸豊帝と息子の同治帝の在位時から事実上政権を支配し、甥にあたる光緒帝を軟禁の末ついには毒殺した希代の女傑。彼女の時代に清国は列強の侵略を許し、香港租借を余儀なくされ、国辱をなめさせられた。それもこれも西太后が近代化を拒み続け、腐敗しきっていた国家に力がなかったからだ、というのが現代の解釈だ。

だがこの小説での西太后はとてつもなく人間臭く、それこそがこの小説の大きな魅力だ。

小説の中で西太后は心許した幼馴染で元婚約者たる栄禄(こいつがまたこの上なく腹黒い)の前では少女のように「もういや!」と駄々をこね、食事がまずいと癇癪を起こし、心迷ったときは皇太后宮裏の花園の奥にある築山にこもり、独り亡き乾隆皇帝に「おじいちゃん」と語りかける。とても五十代の婦人とは思えない子どもっぽい本心の傍らで、彼女は乾隆皇帝から託された、大清帝国の断末魔を肩に負う宿命に押しつぶされそうになっていた。

(中国ではおそらくこんな書き方をする小説家はいないだろう。清国に代表される封建社会は、現政権をにぎる共産党が否定し続けてきた国家のあり方であり、その権化ともいえる西太后は悪役以外のなにものでもない)

 

一方乾隆皇帝だが、小説の中では彼こそが大清帝国衰退の原因をつくったとされる。はるか昔から代々天子に伝わり、真に天命ある者にだけ手にすることができる「龍玉」を乾隆皇帝がどこかに隠してしまったせいで、天命なき軟弱者が皇帝の位につくことになり、清国が徐々に衰退していったのだ。第2巻ではこの「龍玉」が小説全体のキーワードとなっていく。