コーヒータイム -Learning Optimism-

本を読むということは、これまで自分のなかになかったものを取りこみ、育ててゆくこと。多読乱読、英語書や中国語書もときどき。

“The Millionaire Next Door” (by Stanley Ph.D, Thomas J)

とても面白い本だが、前半ではいささか退屈するかもしれない。読みながら「贅沢せずにお金を貯めれば億単位の資産を築くことも夢ではないというごくあたりまえのことを、どうしてこうも念押ししているの?」と思ったものだ。だがそのうち気づいたーーアメリカ社会において、「億単位の資産をもつ者が、一目でそれとわかるような贅沢をしないでつましく暮らすこと」そのものが信じられないとみなされるのだ!

このことに気づいてから、私はこの本を、アメリカと日本の価値観の違いが色濃く出ているサンプルとして読んだ。

 

実際にアメリカ社会で暮らしたことがないから本当かどうかはわからないが、この本では、アメリカ社会において、お金持ちが贅沢することをほとんど義務であるように書いている。お金があるならばそれを享受する。高い家、車、服を買う。成功したビジネスマンはオーダーメイドのスーツに身を包み、クライアントに「自分はこの服を買える収入を得ている、それだけの実力がある」と印象付ける。

What happens when you tell the average American adult that he needs to reduce his spending in order to build wealth for the future? He may perceive this as a threat to his way of life.

(平均的なアメリカ人の成人に、将来のために資産形成するには支出を減らさなければならない、と言ったらどうなるだろう?彼はこの言葉を、自分の生活方式を脅かすものとして受け止めるだろう。)

一方日本ではもちろんお金持ちであることを隠さない人々がいる一方、お金持ちでありながらつましやかに暮らす人々についてはアメリカより寛容だと思う。少なくとも節約しなければならない、貯蓄をもつべきだという認識はアメリカよりも深く根付いている。(逆に貯蓄ばかりで投資に熱心でないと批判されることもあるが。)

日本の資産評価額のかなりの部分を不動産が占めるという特殊事情があることも理由の一つだろう。先祖代々の土地をもつ人々は資産評価額は億越えでも、日々の生活で使えるお金がさほど多くなく、贅沢出来ないのだ。

 

アメリカでは、一見お金持ちに見える人々でも、支出が多すぎて実際の資産額は大したことがないことが多い、と本書はばっさり切りすてる。この点では日本も一緒だろう。

本書では簡単な計算式で、ある年齢の人々が持っているべき資産額を見積もっている。さて、あなたの資産額はどれくらいだろう?

Multiply your age times your realized pretax annual household income from all sources except inheritances. Divide by ten. This, less any inherited wealth, is what your net worth should be.

(年齢に、相続したものをのぞくすべての収入源から得た税引前世帯年収を乗じる。それを10で割る。これが、相続した資産を除けば、あなたが持つべき正味資産だ)

この本でとりあげる「あなたの隣にいるかもしれない、億単位の資産(収入ではない)をもつお金持ち」は、持つべき正味資産額の二倍、三倍もの資産を築いている人々だ。だが、彼らは一目でそれとわかる格好はしていない。彼らは高価なスーツを買うことよりも、時間、精力、金銭を、資産形成につぎこむことの方が大切だと考えている。本書の表現を借りればこうだ。

They believe that financial independence is more important than displaying high social status. 

(彼らは、経済的に自立することは、高い社会地位を誇示することよりも大切だと信じている。)

著者の理想は、日本でいうと中小企業や町工場のオーナー社長が資産形成にも力を入れている姿に近い。起業して一生懸命働き、服や車にお金をかけずひかえめに暮らし、収入の一部を投資にまわして資産形成をする人々。Financial Indepedenceは、著者が口を酸っぱくして言っていることだ。

面白いと感じるのは、日本はアメリカの実力主義、活発な金融投資などを理想的とすることが結構ある一方、本書では、日本の伝統的価値観(に似ているように思える。著者は本文中で日本を引きあいに出したことは一度もない)やり方がお金持ちになれる方法だと奨励しているように思えることだ。もしかすると、隣の芝生が青く見えているからか?  と考えたくなる。