コーヒータイム -Learning Optimism-

本を読むということは、これまで自分のなかになかったものを取りこみ、育ててゆくこと。多読乱読、英語書や中国語書もときどき。

[昔読んだ本たち]児童読みもの編

昔の読書記録を整理しているうちに、子供の頃読んだ本たちのことも思い出してきた。毎週図書室に通っていたけれど、大人になってからも覚えている本はそんなに多くない。記憶に残っている本は、それだけ印象深いものがあった。一つ一つ思い出してみたい。

それぞれの本には、印象に残っているフレーズがある。古い記憶ゆえ間違っているかもしれないけれど、覚えているままに書いた。

 

松谷みよ子「直樹とゆう子の物語」シリーズ

屋根裏部屋の秘密 (偕成社の創作(38))

屋根裏部屋の秘密 (偕成社の創作(38))

 

直樹とゆう子の兄妹が、ゆう子がまだよちよち歩きのころからしだいに成長しながら、さまざまなことを知ってゆく物語。全5冊あり、それぞれ原爆、公害、ユダヤ人虐殺、七三一部隊、太平洋戦争終戦をテーマとしている。私は小学生の頃読んだ。わかりやすい語り口で、子供向けゆえ必要以上に陰惨になることなく、けれども考えさせられる物語。

ぼくはーーぼくはその時、エリコの苦しみがわかったんだ。

 

岡本淳『選ばなかった冒険ーー光の石の伝説』

選ばなかった冒険―光の石の伝説 (偕成社ワンダーランド (17))

選ばなかった冒険―光の石の伝説 (偕成社ワンダーランド (17))

 

ごく普通の小学生たちが迷い込んだドラゴンとファンタジーの世界で、どうすればいいかわからないなりに必死に生還する物語。私が読んだ児童書で、初めて後味の悪さを感じた作品。

光の石に、願いごとを。

 

浜野えつひろ『電子モンスター、あらわる!』

電子モンスター、あらわる!―コンピュータゲームからの秘密通信 (創作のとびら)

電子モンスター、あらわる!―コンピュータゲームからの秘密通信 (創作のとびら)

 

あらゆるものが電子制御される電子都市が、政府によってつくられた。ある日電子都市に大雨が降り、メインコンピュータに落雷があった。同じころ、電子都市の主任の息子で、ゲーム大好きな小学生であるワタルが、ゲームの画面の中から勇者に話しかけられて仰天する。それは、落雷がきっかけで生まれた、意志を持つコンピュータプログラムだった。

ラストが悲しいお話。生きたいと願うコンピュータプログラムは、自分をウイルス扱いして消し去ろうとする電子都市の大人たちに反抗するために、原子力発電所のコンピュータに侵入してそこで増殖を始めた。原子力発電所の制御プログラムを破壊されれば原子炉が暴走する。電子都市が大混乱に陥るなか、ワタルは父の同僚である青木とともに原子力発電所に乗り込み、「友達」の説得にあたる、というお話。電子空間に生まれる意志あるもの、原子炉の暴走、危機管理、友達とのつきあい方と、読めば読むほど味わい深い作品。

だれよりも生きることを望んでいたのに…。

 

斎藤洋『ようこそ魔界伯爵』

ようこそ魔界伯爵 (偕成社おたのしみクラブ)

ようこそ魔界伯爵 (偕成社おたのしみクラブ)

 

主人公の小学四年生が、父母が会社の慰安旅行に出かけている間、叔母にあずけられることになったが、叔母が信じられないくらい大金持ちで、しかも運としか思えない方法でお金を簡単にかせぐのを見てびっくりする。やがて、叔母の家に集まる奇妙な人たちが、じつは魔界出身者であることを知り、自分が魔界伯爵の素質を持っていることを知る。物語の内容もさることながら、小学生の想像力の限界を駆使した贅沢品の描写がおもしろい。

「これは、値引きなしの現金価格一億円の特別注文のベンツで、エンジンの排気量は12500CCです。」

なんてボンネットに書いておいたとしても、誰も疑わないような車に乗って、…

 

村山早紀魔法少女マリリンシリーズ」

手書きで全文書き写してしまうくらい(!) 好きだった作品。美しい都を治めた伝説のお姫様、ユリアナがかけていた青い石の首飾りをめぐる冒険の旅。普段はなかなかうまくいかないけれどいざとなったらすごい魔法を使える少女マリリンが、酒場で出会った仲間たちとともに、王子様の依頼で魔物の森に踏みこむのは、まさにRPGの世界そのもの。

そうよ、わたしはあきらめない。

だって夏休みは、まだまだ終わらないーー

 

野村路子テレジンの小さな画家たち』

第二次世界大戦中のユダヤ人虐殺に、初めてふれた作品。テーマゆえどうしても残虐性にふれないわけにはいかないけれど、印象に残ったのは、収容所の中でも希望を失わず、子供たちに教育をしようと尽力する大人たちや、絵や詩を通して自分を大切にすることができた子供たちの姿だ。

あなたたちには名前があるのよ。ドイツ兵がどう呼ぼうと、番号をつけようと、あなたたちには、親からもらった大切な名前があるの。


『黄金の脳を持つ男』(世界こわい話ふしぎな話傑作集)

怖がりのくせに読んでしまった一冊。七編のふしぎな話を収録した短編集で、怖さの中にユーモラスがある物語集だ。最初にでてくるヘルモンティス姫のミイラの足の物語が一番好きだ。

ところが、どうだ。このわしの肉体は鋼のように硬い。わしはこの姿で、世界の最後を見届けてやるのだ。姫だって…いつまでもほろびないのだ。

 

中村妙子『クリスマス物語集』

クリスマス物語集

クリスマス物語集

 

表紙の美しさに惹かれた本。世界で読みつがれているクリスマスにちなんだお話を集めた短編集になっており、それぞれが遠い異国のクリスマスの雰囲気を味わせてくれる素敵な本。プレゼントにもぴったり。

それでこそ、私のかわいいゾフィーだ。りんごの貯金箱を持つにふさわしい、考え深い子さ。

 

フィリス・レノルズネイラー『さびしい犬』

さびしい犬 (世界の子どもライブラリー)

さびしい犬 (世界の子どもライブラリー)

 

犬がほしくてたまらない主人公マーティが、乱暴者の隣人ジャッドに邪険にされている犬にシャイローという名前をつけ、シャイローを自分の飼い犬にしたいと悪戦苦闘する物語。少年がシャイローを両親に見つからないように隠し、あれこれ手をつくしてエサを確保するさまが微笑ましい。

驚いたこは、物語の中で、マーティがまだ子供にもかかわらず、まわりの大人が対等に接していたことだ。乱暴者ジャッドでさえ、犬がほしいというマーティの願いを子供の戯言と聞き流すのではなく、正面切って向き合っていた。

おまえにも飼い犬ができたな。

 

マリア・グリーペ『自分の部屋があったら』

自分の部屋があったら (世界の子どもライブラリー)

自分の部屋があったら (世界の子どもライブラリー)

 

この本は三部作の2冊目で、1冊目は『エレベーターで4階へ』、3冊目は『それぞれの世界へ』というタイトルだ。

母ひとり子ひとりの生活を送る女の子ロッテン。意地悪なラーションのおかみさんのところに住まわせてもらっていたが、ロッテンを嫌うおかみさんに追い出されるようにして母娘は家を出て、母親のエルサは住みこみの使用人の仕事を見つけた。

ロッテンは母の雇い主〈ご主人〉の娘マリオンと仲良くなり、美しく上品な女主人オルガを大好きになる。マリオンはお金持ちのお嬢様らしく多少わがままなところがあり、厳格な〈ご主人〉を好きではなく、〈ご主人〉は実親ではないと思いたがったり、ちょっとしたいたずらをしかけたりする。ロッテンともケンカしたり仲直りしたり、なんだかんだ友達付きあいをしていた。ロッテンはマリオンの家族とオルガにあこがれ、使用人部屋に母親と二人で住んでいる自分自身を顧みて「自分の部屋がほしい」と思い始める。

物語はお金持ち家族とその使用人の子供同士の友情についてではあるが、子供のころにはそんなことを気にせずつきあえる。だが3作目『それぞれの世界へ』というタイトルにあるように、いずれ道は分かれる。子供から大人へしだいに成長していき、世のせちがらさを知っていく二人の女の子を描いた、印象深い作品だ。

二クローネ銀貨が一枚、机の上で光っていた。…二週間に一度まとめてもらうのが、このお金だ。ロッテンは二クローネ銀貨を渡してくれるときのママの、おごそかな表情を思い出した。その銀貨を入れた貯金箱を振ってお金持ち気分になったときのことを、はっきりと思い出した。