コーヒータイム

日々読んだ本を紹介しています。英語や中国語書も時々。面白そうだと感じる本があれば、ぜひあなたも読んでみてください!

ユン・チアン《ワイルド・スワン》(下)

 

ワイルド・スワン(下) (講談社文庫)

ワイルド・スワン(下) (講談社文庫)

 

関東直撃を恐れられた台風12号が連れてきた暴雨の音を聞きながら、深夜までかけて一気に読みきった。

これは中国に生を受けた著者とその母親、祖母の人生を書いた真実の物語。中国現代社会に興味があるすべての人が手に取るべき本だ。

下巻では、中巻までに書かれたこの世の地獄そのものの光景から、徐々に上向いていく。

 

少女時代からおとなにならざるを得なかった著者は、都会から農村に送られる。両親も同様で、家族はバラバラになった。祖母は苦しみの中で世を去り、父親の狂気はなんとか再発しなかったものの、重労働を課せられて健康状態が悪化した。

だがこのころから政治状況がしだいに改善する。毛沢東が死去し、文化大革命を煽動した江青一派(もちろん背後には毛沢東の容認があった) が投獄され、中国はしだいに改革解放にむかう。

それでも著者の文章には一抹の陰が消えない。文化大革命の十年で、中国は美しいものをことごとくなくしてしまったと言葉少なに語る。今日、残念ながら中国人観光客はほとんどマナー知らずの代名詞になっているように思う。自己中心的なふるまいは、あるいはこの時期に種まかれたのかもしれない。時には実の肉親を告発し、また縁を切らなければ生きてゆけなかった時代に、思いやりの心が育つはずもない。

 

祖母、母、著者の三代にわたる自伝は、とほうもなく強いエネルギーをもっている。狂乱の時代に翻弄されるさまを書ききることで当時の状況をみごとに描き出しているし、その時代に流されずに己の信念を貫こうとした人々の気高さが映し出されている。読むほどにこちらにまで迸るエネルギーが迫ってきそうな、傑作だ。