コーヒータイム -Learning Optimism-

本を読むということは、これまで自分のなかになかったものを取りこみ、育ててゆくこと。多読乱読、英語書や中国語書もときどき。

小難しいけれどためになる『バブル 日本迷走の原点』

この本は日本経済新聞を読み慣れていなければ難しい。

著者は40年間、経済記者として市場経済を見続けてきた人物。それゆえか著書も新聞記事風だ。書き方は簡潔明瞭、事実および事実に基づく推測に終始するけれども、たとえ話などの「同じことを別の言い方で繰り返す」ことや、登場人物達の「直接話の本筋(経済活動やバブル)にからまないながら性格や人間臭さを浮き彫りにするようなエピソード」がぎりぎりまで削ぎ落とされている。新聞記者というのは、限られた字数で最大限情報を伝えるよう訓練されているのだろう。

そういった文章に慣れていなければ、無味乾燥で面白くないと感じてしまう。だが、とっつきにくさを乗り越えれば、内容は深い。これからバブルは主に発展途上国で起こることになるだろうが、それを理解するための情報が、たっぷりと詰めこまれている。

 

本書で取り上げているのはバブル。1980年代後半に空前の株高を招き、ツケとして、その後の失われた20年をもたらした現象。著者の言葉を借りれば「特定の資産価格(株式や不動産)が実体から掛け離れて上昇することで、持続的な市場経済の運営が不可能になってしまう現象」だ。

もとより株式や不動産といったものの資産価格を予測できるかどうかは金融業界の永遠のテーマである。予測できればウォーレン・バフェットを超える大金持ちになれるからだ。バブル時代には誰もが、株式価格や不動産価格は上がり続けると予測した。その予測は数年間外れることはなく、その後唐突に大外れとなった。

著者はバブルをこう総括する。

80年代のバブルとは、戦後の復興と高度成長を支えたこの日本独自の経済システムが、耐用年数を過ぎて、機能しなくなったことを意味していた。日本経済の強さを支えてきた政・官・民の鉄のトライアングルが腐敗する過程でもあった。

 

読み進めると、バブルとはなんだったのか、おぼろげながら輪郭が浮かぶ。

日本は規制経済、為替固定、円安ドル高というシステムの中で経済成長を享受したが、1985年のプラザ合意で、アメリカの要請でドル高是正に切りかえた。最初はまだ経済成長の勢いのままに莫大な利益を得られたが(これがバブル)、日本市場がグローバル市場から正当な値付けをされるようになると、株価や不動産価格は暴落し(本来あるべき価格に戻り)、含み益を会計計上していた企業が次々破綻した。

ーー私にはこういう物語に読めた。

つまり、規制された市場では価格は不当に高くつけられることがあり、規制緩和によってグローバル市場にさらされれば本来あるべき価格に戻る。その過程でバブルが生じたのだ、と。

バブルと不況が数十年単位で繰り返されるという経済。日本経済は不況からだんだん脱けだそうとしているが、今後またバブルが生じるかもしれない。その時、1980年代の教訓を生かしたい。