コーヒータイム -Learning Optimism-

本を読むということは、これまで自分のなかになかったものを取りこみ、育ててゆくこと。多読乱読、英語書や中国語書もときどき。

いまの職場から逃げたくなったときに読む『The End of Jobs: Money, Meaning and Freedom Without the 9-to-5 (English Edition)』

少し長い前置きになるが、私がインターネットを通したビジネスに本気で興味をもったのは、勤務先 (日系企業) での会議がきっかけだった。

その会議で、「重要な設計図の内容にリスクがある。プロジェクト全体に影響するかもしれない。リスク管理をどうお考えか」という質問がプロジェクトリーダーに向けられた。リーダーはその設計図を手がけた20代の若手の方を向いて「〇〇君が一生懸命作ったものなんだからそんなことにはならないよ、ねえ?」と言った。

プロジェクトのリスク管理は、リーダーであるあなたの仕事ではないのか。なぜそれに答えないのか。そもそもなぜ精神論で出来不出来を評価しようとするのか。

怒鳴りたくなるのをこらえた。

事実、設計図はひどかった。必要情報が足りなかったからだ。プロジェクトリーダーの仕事は、設計図にリスクがあることを把握し、リスクの管理方法を考えること。若手にはできないことだ。だがリーダーはそうすべきだと思っていないのがよくわかった。

あの会議以降、私はこのリーダーや、このような上司から逃げる方法を探し続けている。

本書にめぐりあったのは、そんな時だった。

 

本書は、この前読んだ『どこでも誰とでも働ける』(尾原和啓著)のアメリカ版といえる。インターネットを通して、好きな国に住みながら居住国以外でビジネスを創り出すことが理想的であり、この情報化社会にふさわしいというのがテーマだ。

私がこの本を購入したのは、スティーブ・ジョブズの素晴らしい言葉が引用されていたから。最初にこの言葉をもってくる本はきっと読み応えがあるだろうと思った。

“Everything around you that you call life was made up by people that were no smarter than you and you can change it, you can influence it, you can build your own things that other people can use.

Once you learn that, you’ll never be the same again.”

ーーあなたのまわりにあるもの、あなたが「生活」と呼ぶものはすべて、頭の良さではあなたとどっこいどっこいの人達によって作られた。

あなたはそれらを変え、影響し、ほかの誰かが利用できるものを自分で作ることができる。

このことを学べば、あなたはもはや以前と同じあなたではなくなる。(意訳)

読めば読むほど、興味深いことが次々出てきた。

たとえばなぜ高学歴にもかかわらず就職が難しくなっているのか。著者の主張をまとめると、学校教育では決められたやり方をこなせる人材を育てるが、インターネット時代には「やり方を創る」人材こそが重宝されるから、となる。

Cynefin Frameworkというチャートで示されるとさらに納得できる。人工知能ブームは、 まさに、人工知能の応用先をみつけ、その市場を開拓してやろうという世界競争である。人工知能というものは過去存在しなかった。したがってその利用方法も自力で考えねばならない。これこそが起業家がやるべきことで、チャートで ”Complex” と表現されているエリアだ。

 

本書では繰り返し、インターネットの普及によりゲームのルールは変わったと述べる。かつては土地、債券、知識、情報が高く売れた。しかし今は地価は落ちつき、債券市場は歪みが小さくなり、インターネットで最新情報や教育プログラムにタダでアクセスできる。

ではこれからの時代で金になるのはなにか? それは起業だと著者はいう。

これについて私は疑問をもっている。知識は売れる。教育がまさにそうだ。だが起業はあくまで手段であってそれ自体が売れるわけではない。

ではこれからの時代はなにが高く売れるのか?  私にはすでに答えが出ているように思える。「経験」だ。

かつてないほどに細分化された消費者需要に応えることは、大企業には難しい。大量生産が見込まれる分野ではこれからも大企業が必要になるだろうけれど、それ以外の分野では、特定の消費者需要にあった製品を提供できる小規模企業がどんどん成長するだろう。また、大企業がつくったものをシェアするビジネスも栄えるだろう。

消費者はどんどん自分の好みにあった製品やサービスを欲しがるようになるだろう。それは自分好みの経験をするためだ。人生は経験の積み重ねでできている。自分好みの経験をしたいという欲求は、つまりは自分好みの人生を過ごしたいということだ。そのためにならお金を出し惜しみしない。細分化された消費者需要に応えて彼らをファンにできれば、お金儲けに困ることはないだろう。日本のオタク文化がいい例だ。

多様化こそが生存の鍵。生物学上の真理が、これから世界規模で推し進められるのかもしれない。