コーヒータイム -Learning Optimism-

本を読むということは、これまで自分のなかになかったものを取りこみ、育ててゆくこと。多読乱読、英語書や中国語書もときどき。

人間と自然との終わりなき戦い『土木と文明』

いつも参考にさせていただいているブログ「わたしが知らないスゴ本は、きっとあなたが読んでいる」で紹介されたスゴ本『土木と文明』を読んでみた。

『土木と文明』はスゴ本: わたしが知らないスゴ本は、きっとあなたが読んでいる

 

現代日本において、土木は縁の下の力持ちのような存在だと思われているのかもしれない。堤防も、灌漑施設も、鉄道も、橋も、すでに一通り出来上がっているから。だがこの本を読めば、人類がどれほど苦労して土木技術を発展させてきたかがわかる。

治水事業ひとつとってもそうだ。日本には「暴れ川」と呼ばれた川が各地に残されている。氾濫を止めるために、橋をかけるために、人々は土木工事に挑戦しては失敗を繰り返してきた。かつては土木工事の成功を願って、神が最も喜ぶとされた供物ーー人間を人柱として捧げることまでしたのだ。

この本では古今東西の治水事業を取り上げている。エジプトやメソポタミアの灌漑事業から、しだいに文明が発達してきた。ウル第三王朝のウルナンム王が制定した世界最古のウルナンム法典は、灌漑水路を毀損したり管理を怠ったりした者への罰則が規定されているという。

近代社会では、鉄道が文字通り世界を変えた。鉄道輸送は戦争においては命綱になった。このことをテーマとしたのが、南北戦争当時、複数の鉄道路線が乗り入れるアトランタを舞台とした名著《風と共に去りぬ》である。

 

本書をすみずみまで読むと、土木の基礎知識が一通り身につく。その状態で外に出ると、道すがら、建設物を新しい目で見るようになる。橋を見かければその幅と支柱にちょっと注目し、川を渡れば両岸のコンクリート護岸をしばし見つめる。高圧電線がかかる鉄塔も見逃せない。今の土木技術のすばらしさに感心しながら、かつて人々が土木技術にこめた願いに思いを馳せる。とても楽しい散歩になること請け合いだ。