コーヒータイム

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印象派で「近代」を読む(中野京子著)

「怖い絵」シリーズの著者が、絵画を軸に近代史を紹介する本。テーマがちがうため「怖い絵」シリーズのような意外性や物語性があるわけではないが、近代史の軽い読み物にはぴったり。

かつて絵画は王侯貴族のためのものであり、神話や聖書物語や教養がふんだんに盛りこまれた、逆にいえばそうした知識がなければ鑑賞が難しいものだった。印象派は王侯貴族が革命によって力を失ったあと、庶民階級のものとして発展してきた。見るもの、感じるものを描く。教養がなくともその美しさを感じとることができる。本書は印象派が受け入れられるまでの苦労、印象派が見たままに描いた現実と社会背景をメインに紹介する。

これまで王侯貴族が描いてこなかったものを、印象派絵画は描いた。庶民生活。下層階級。高級娼婦とパトロンまで。「見たままを描いた」からそこには社会批判などはなく、中野京子さんはそれを別著で「怖い」と表現したが、同時に本書で「背景を知ってなお美しいと思わずにいられないのが絵画の持つ力」と書く。

美しいと感じるだろうか?  人それぞれだと思う。

ピラミッドが巨大墓地だと知っても、ロンドン塔が王侯貴族専用処刑台だと知っても、ドガの絵《踊り子》に描かれた女性が金持ちの愛人だと知っても、感じ方が変わらない人はいるかもしれない。けれど、私は見る目が変わる。建物に、作品に、怨念のようにまとわりつくなにかを感じとるようになる。それが作品に陰惨な魅力を添えているのもまた事実だ。

美しいと感じることは減じても、見ずにはいられない魅力を放つのが傑作。そういう方が近いかもしれない。