コーヒータイム

日々読んだ本を紹介しています。英語や中国語書も時々。面白そうだと感じる本があれば、ぜひあなたも読んでみてください!

神の世界に迷いこんだ人間『玉依姫』

八咫烏シリーズの五作目。舞台は八咫烏が支配する世界から人間界に移る。普通の人間である志帆が、山内村に住まう伯父を訪ねるところから物語は始まる。

村総出で歓迎された志帆だったが、伯父が志帆を呼び戻したのは、山神の生贄にするためだった。なすすべない志帆の前に、大猿に抱えられ、八咫烏を従えた、醜い赤子のような姿をした「山神」が現れた。志帆は大猿から、これを母親として育てよと言われるーー。

 

はっきり言って、志帆は感情移入が非常に難しい主人公だった。不可思議な力が働いていたためとはいえ、紆余曲折ののちむしろ積極的に「山神」に母親として接し、志帆を救おうとやってきた祖母をも追い返したのだから。しかもそうすることにさほど心理的葛藤を見せないまま。

作中指摘されたことだが、志帆はみずからの意志を持とうとせず、他人が言うことを鵜呑みにして、他人が喜んでいればいいと思うような危険なまでのお人好しだ。最終場面で「みずから玉依姫たることを選んだ」と言われても、どこか腑に落ちないところは残る。

わたしは知っている。みずからの意志がなく、他人が喜んでいればそれでいいと思うような人間が実際にいることを。そういう人間は、他人を利用することをなんとも思わない人々の格好の餌食になり、その人を大切に思う友人家族に多大な負担をかける場合すらあることを。だから余計に、志帆が好きになれない。

一方で、作中に登場する八咫烏がシリーズ前作の誰なのか、想像するのはとても楽しい。作中、八咫烏が一羽、大怪我をするのだが、彼に付き添う八咫烏の名前を知ってすぐにそれが誰だか分かった。瀕死の重傷とはいえ、助かるのが目に見えた状況だったこともあり、一瞬、「あいつか!」と膝を打ちたくなる爽快感があった。