コーヒータイム -Learning Optimism-

本を読むということは、これまで自分のなかになかったものを取りこみ、育ててゆくこと。多読乱読、英語書や中国語書もときどき。

フジテレビ買収を決めた信念『生涯投資家』

ライブドアによるフジテレビ買収がニュースになった頃、わたしはまだ経済にも投資にもあまり興味がなく、フジテレビ買収のなにが問題なのか良くわからなかった。それに絡んで村上ファンドの名前が出てきたときも、インサイダー取引があったらしいくらいの認識だった。

この本は十年の時を経て、村上ファンドを率いていた著者が書いたものだが、いわゆる真相告白本ではない。投資家としての信念、生涯投資家として実現しようとしたことを訴えかけた本だ。

わたしは基本的に告白本の類は読まないのだけれど、この本は純粋に投資理念について学ぶための本として読むことができた。投資とはなにか、投資家とはなにか、企業のあるべき姿はどういうものか。そういったことについて、50年の投資経験がある著者が、生涯かけて学んだことを読むのは、これから投資を考えるにあたってとても役立つ。

そもそも投資とは何かという根本に立ち返ると、「将来的にリターンを生むであろうという期待をもとに、資金(資金に限らず、人的資源などもありうる)をある対象に入れること」であり、投資には必ず何らかのリスクが伴う。しかしながら投資案件の中には、リスクとリターンの関係が見合っていないものがある。それを探し、リタ ーン>リスクとなる投資をするのが投資家だ。

 

著者が目指してきたのは、ひとことで言うと、コーポレートガバナンス徹底による死蔵資金活用。

コーポレートガバナンスは、企業内のセクハラ・パワハラ防止やら、企業の社会貢献活動やら、さまざまな場面で異なる意味で使われている言葉だ。投資家として見ると、コーポレートガバナンスは、投資先企業・団体との健全な対話や議論、株主が企業の健全な経営を監視・監督するためのルール。目指すところは企業価値向上、ひいては株価上昇による投資リターンの最大化だ。だからその反面、内部留保しすぎて投資も株主還元もしていないような企業は、投資家からすると、不必要な死蔵資金を抱えこんで活用出来ていないとしか映らない。

コーポレート・ガバナンスの徹底は投資家にとって目的ではない。目指すリターンを得るまでの目標を投資先と共有し、確認し合うコミュニケーションのルールだ。ゴールはあくまでも、企業が株主に対して、自社の成長や株主還元という形でより高いリターンを提供することである。

著者から見ると、株価向上に努めていない、本来あるべき企業価値に対して株価が低すぎる企業が多すぎるという。

たとえば内部留保金額が時価総額より高い(著者曰く「一万円入りの財布を七千円で販売しているようなもの」)と、資金活用が十分ではないし、そのような企業は買収対象になりやすい。ライブドアが買収をしかけたニッポン放送も、歴史的経緯でフジテレビの筆頭株主でありながら、自身の株価はつりあわないほど低かった。

 

内部留保するくらいなら事業投資なり株主還元なりすべき、という著者の考えはもっともだ。一方で、貯金大好き安定大好きな日本人気質から見ると違和感はないのだから、難しいところ。この気質をどうにかしないと、コーポレートガバナンスの実現は遅々として進まないままだろうという気がする。

企業経営者に限ったことではないけれど、貯金大好き安定大好きな日本人気質は、不安定な状態(手元に資金があまりなくて、事業が成功してお金が入ってくるかわからない状態)への過剰なまでの恐怖心があることの裏返しにも思える。あるいは、高度経済成長期やバブル期に資産を持っているだけでどんどん価値が上がっていった成功体験があるから、経済状況がまったく変わってしまった現在でも同じやり方にしがみついているのかもしれない。もしくは、そもそもリスク判断についての教育(いわゆる金融リテラシー)が行き届いておらず、リスクとリターンを比較した上でリターンを期待して飛びこむという思いきった決断ができないのかもしれない。

どれが実態に近しいのかはわからないし、すぐに変わるものでもないだろう。今わたしは、自分自身から少額でも投資を始めようかと考えている。こういったことを、投資を実行しながら考えていきたい。