コーヒータイム

18歳のわが子に読書をすすめるために、まずわたしが多読乱読しながらおすすめを探しています。英語書や中国語書もときどき。

【おすすめ】景気サイクルを理解するための名著『Big Debt Crisis』

 

Big Debt Crises (English Edition)

Big Debt Crises (English Edition)

 

【読む前と読んだあとで変わったこと】

経済ニュースを読むとき、投資について学ぶときなどに、景気サイクル循環という視点から理解を試みるようになった。

 

本書はいわゆる景気サイクルの解説書。好景気と不景気は循環するといわれるけれど、なぜ循環するのか、不景気が来たらどんなことが起こるのか、不景気の影響を抑えるための政府介入にはどんな効果が期待できるのか、そういったことを解説し、ケーススタディとしてここ100年の経済史上の大事件を分析した専門書。

著者のRay Dalioはみずからも16兆円という世界最大規模のヘッジファンドを率いる投資家であり、彼のヘッジファンドは2008年の金融危機でも底堅さをみせ、プラスの運用利益を出している。

著者の基本的考え方は「不景気や金融危機は政府が介入することにより影響を抑えられる。それはつねに一部国民の痛みと犠牲を伴うが、政府介入の方法とタイミングによって痛みは大きくも小さくもなる。だから政府は国民の痛みと犠牲を小さくするため、適切なタイミングで適切な手を打たなければならない」。

まあ経済の動きをどうにかコントロールしようと人類は数百年試行錯誤しながらハイパーインフレだの世界恐慌だのの失敗を繰り返してきて、「経済政策によるコントロールは無理」と悲観的になる人も出てきたわけだけれど、著者はそれでも「コントロールできる」と信じているわけやね。それで、適切な手とはなにか、手を打たなければならないことを知らせる兆しとはなにかを、歴史的出来事をからめながら分析するために、分厚い本を書き上げた。

経済専門家たちが絶賛するこの大作をkindle unlimitedで手軽に読めるという事実が、これまでとまったく違う情報化時代が訪れていることを雄弁に語る。一方で、国家経済政策はここ100年のやり方から、実はそんなに変わらない。国家経済政策を取り上げた本書は、歴史的出来事を扱いながら、未来予想図を目の前に広げてくれる。

知らないというのは恐ろしいもの。たとえば銀行が投資商品の損失補填をすることで、あたかも投資商品によい利回りが保障されているかのように見せかけるやり方。これは実際の収益評価がやりにくくなる上、不景気時には銀行本体の収益をも悪化させ、最悪の場合金融システムそのものにダメージを食らう。先進国ではバブル崩壊や金融恐慌の経験からこうしたことを学び、銀行が直接投資商品の利回りを保証することを禁じ手とした。しかし、発展途上国ではこうした仕組みを平気で使っているうえに、先進国にそうした仕組みがないことだけを見て「我が国独特だ」と胸を張る人もいるのである。なぜ先進国がそういう仕組みを取り入れないのかを知らず、嬉々として損失補填付商品を買いあさっているうちに、不良債権をつかまされた銀行の体力はじわじわと削られてゆく。

こうしたことを招かないためにも、これまでどんな経済政策がとられてきたか、うまく行ったものはなぜうまくいったのか、失敗したものはなぜそうなったか、考察することが大事になり、本書はまさに格好の教材になる。

わたしとしては英語表現はなんとなく読みにくいが、基本原則から入ってくれるから、初心者でもそこそこ理解しやすい。

 

まずは基本から。

Credit is the giving of buying power. This buying power is granted in exchange for a promise to pay it back, which is debt.

ーー信用 (credit) とは、購買力を与えることである。購買力は支払い約束と引きかえに与えられるものであり、支払い約束がすなわち債務 (debt) である。

クレジットカードでの買いものがまさにこれ。クレジットカードのショッピング枠(これが “credit”)内であればほしいものを買える。だが、いずれ返済しなければならない(これが “debt” )。

この債務残高が健全に伸びていきながら、債務償還してなお余るほどの利益をもたらしてくれるのが好景気。ただし債務残高が伸びすぎる、すなわち人々が身の丈に合わない消費や投資をしはじめる兆しが現れたら、バブルの足音が聞こえる。債務残高が伸びすぎて焦げついたとき、バブルが弾ける。

バブルの特徴としては「高利子融資に頼った買いものをする」「価格上昇を予想し、防御策として必要以上にたくさんものを買う」「新しい買手が市場に参加する」などを挙げている。どれも庶民感覚ではごく自然に起こりうることばかりに思えるが、それをバブルの前兆と捉えよという著者からの警告だろう。

日本では1980年代のバブル崩壊と、それに続く失われた20年と呼ばれる不況のために、投資にとても慎重になっており、いまのところ好景気がすぐにやってくる気配はない。けれど数十年経てばどんな大事件でもしだいに忘れられるのが世の常で、いずれもう一度バブルがやってくるかもしれない。

 

本書はあまりに重厚で、政府の経済政策決定者に向けられており、経済専門家ではないわたしには、内容全部を吸収するのは難しかった。

だが、以下の文章から未来予想図を見るのは、わたしの取り越し苦労だろうか。ここは著者は「本題ではない」と断ったうえで一章を割いてさらりと述べている内容である。

When 1) within countries there are economic conflicts between the rich/ capitalist/ political right and the poor/ proletariat/ political left that lead to conflicts that result in populist, autocratic, nationalistic, and militaristic leaders coming to power, while at the same time, 2) between countries there are conflicts arising among comparably strong economic and military powers, the relationships between economics and politics become especially intertwined—and the probabilities of disruptive conflicts (e.g., wars) become much higher than normal.

ーー1)国内で富裕層/資産家階級/右派と貧困層/労働者階級/左派との間にあつれきが生じたために、ポピュリスト、独裁主義者、国家主義者、軍事主義者たちが力をもつようになる;  同時に2)同じくらい強い経済力と軍事力をもつ国家間で紛争が生じ、とくに経済と政治関係が絡みあうようになったらーー破壊的紛争(たとえば戦争)の可能性が通常時よりもずっと高くなる。