コーヒータイム -Learning Optimism-

本を読むということは、これまで自分のなかになかったものを取りこみ、育ててゆくこと。多読乱読、英語書や中国語書もときどき。

女達のサイドストーリー『烏百花 -蛍の章-』

大人気の八咫烏シリーズの番外編。本編ではほとんどの作品が武人の雪哉と若宮を主人公としているため、どうしても男中心の物語になる。けれど本編ではあまり語られない女達にもそれぞれの物語があり、生き方があり、甘い恋や苦い恋がある。今作はそれらを集めたサイドストーリー集だ。

全六作の短編集であるが、よく登場するのはやはり若宮の妻である浜木綿(はまゆう)と、彼女の筆頭女房である真赭の薄(ますほのすすき)だ。浜木綿は両親を殺されて孤児として育てられた過去を持ち、若宮が背負う苛烈な運命を理解したうえで受け入れようとしている。真赭の薄は大貴族の一の姫、若宮の将来の妃候補として誇り高く育てられたが、ある出来事をきっかけにきっぱりと妃となる望みを切り捨て、断髪して浜木綿の女房になることを選んだ。いずれも芯の強さでは誰にも負けない女性である。

彼女たちのみならず、主要登場人物は芯の強い女性が多い。目が不自由でありながら音楽の才能があり、貴族に庇護されるよりも芸で身を立てることをよしとする結(ゆい)。己の生命と引きかえに愛する人との子どもを残した松韻(しょういん)と冬木(ふゆき)。男達のように戦場を駆けたり、世界の成り立ちについて頭を悩ませたりという派手さはないけれど、作者が意図してかせずか、そこには男達を支えるいわゆる「銃後の妻」達の姿がある。

そういえば、本編最後まで残った主要登場人物の女性達に、物分かりの悪い者はいない気がする。頑なだったり一途過ぎたりするけれど、ものごとを正しく見据えようとして、己の間違いがあれば正そうと努力する。そうでない女性達は物語半ばでさまざまな形で退場していった。

八咫烏シリーズ第二部の刊行予定はまだ先だが、想像もつかないほどの苦難が待ち受けているのは火を見るよりも明らかだ。作者の阿部智里さんは、第二部構想はすでにできているとインタビューで語った。

阿部智里さん『弥栄の烏』 | 小説丸

芯の強い女性達がどのように運命に立ち向かうか、それを楽しみにさせる。そういう気持ちにさせられる短編集。

これらの物語もまた、作者がインタビューで語ったような「伏線に気付かなくても面白かったんだけれども、気付いた後で読むとひとつひとつの意味が変わって見える」ものになるのかもしれない。