コーヒータイム -Learning Optimism-

本を読むということは、これまで自分のなかになかったものを取りこみ、育ててゆくこと。多読乱読、英語書や中国語書もときどき。

入門書にぴったり『トコトンやさしい組込みシステムの本』

以前、アイコンをつなげてプログラミングを行うタイプのソフトウェア「ExtendSim」で遊んだことがある。アイコンの機能が見た目ですぐわかるようになっており(演算用なら “+” 記号がついているなど)、入出力もアイコンにくっついている小さな正方形の数と場所でわかるという、実に親切設計なソフトウェアだ。

このソフトウェアを使うにあたってのルールのひとつに「最初に、画面のどこでもいいので時計アイコンを置く」というのがある。遊んでいる当時は、どうしてこんな不可思議なルールがあるのかよくわからなかったが、この本を読んだあとならわかる。時計は、いつどのタイミングで処理しなければならないかという、プログラミングを走らせるときの大事な指針なのだ。普段認識することがあまりない、プログラム実行での時間の大切さに気づかせるためか、単に面白がらせるために、わざと「時計アイコンを置く」という手順を入れたのかもしれない。

本書でも時計の大切さがでてくる。組込みシステムの要となる演算・制御装置である「マイクロプロセッサ」には「アドレス(必要なデータのありか)」「データ」「コントロール(作業を行うタイミング)」の3つの情報を渡す必要があるが、3つ目はまさに時計を見て行うことだ。

組込みシステムとは、ソフトウェアとハードウェアを組み合わせて、ソフトウェアを走らせてハードウェアを制御するシステム。こう書けばすぐさまロボット制御を思い浮かべるけれど、マイクラプロセッサという超小型制御・演算装置を搭載することにより、家電製品などの小さな機械にも応用できるようになり、さらに通信機能をもたせることで、インターネットからの監視制御まで可能になった。Internet of Things (モノのインターネット)がどんどん進化しており、工場の製造設備でも、それまで人間が24時間監視しなければならなかったことをコンピュータにやらせることや、人間は安全な場所から制御だけして、危険な現場作業は遠隔操作可能なロボットやドローンにやらせることも考えられている。

組込みシステムを紹介しているこの本では、マイクラプロセッサの基本機能から解説している。マイクロプロセッサには制御・演算機能しかなく、それ以外の入力・出力・記憶・通信などの機能はそれぞれ専用のICチップが行うこと。ノイズ除去などこれまでハードウェア回路が担ってきた役割もソフトウェアで数値処理出来るようになりますます機械の小型化が進むようになったこと。さらには実際の仕事で気をつけなければならないことまで。

専門用語は多少出てくるけれど、細かな技術課題よりも、そもそもの組込みシステムの考え方、ビジネスへの利用で気をつけなければならないこともふんだんに盛り込んでいる。ちょうどいい塩梅の本だ。