人工知能、クラウド、ビッグデータ、IOT、RPA…流行りの新しい情報技術についての、なんだか凄そうな単語を新聞や雑誌やネット記事などで見かけない日はなくなったように思う。そしてビジネスパーソン(とくに古めの日系企業に勤める方)は、こういう事態に直面するかもしれない:
- 経営陣から「今流行りの◯◯をウチでも導入したいから、業務効率改善ができるような、うまい使い方のアイデアを出してほしい」と丸投げされる
- ◯◯を導入するべくベンダーやコンサルタントやプログラマーを雇ったけれど、経営陣からは高いと文句をいわれる、雇った方の定着率は悪い、というさんざんな結果になる
- ◯◯を活用するために●●と▲▲のデータが必要になり、それぞれ違う部署が管理しているから個別にかけあったら、●●を管理している部署は「そもそもそんなデータとってないし、新たにとるのは手間がかかる、今は繁忙期だからあとにしてくれ」と非協力的。▲▲を管理している部署からデータは出てきたものの、抜け漏れが多かったり、データ形式がバラバラだったり、ひどいときには手書きだったりして使い物にならず、データ処理の方にものすごく時間がかかることがわかった。
どれも私の知りあいから聞いた実情である。
こういうことになる原因はたったひとつ。
「①ビジネス上のどんな課題を解決したいか明らかにする→②そのためにどんなことをすればよいかを整理する→③必要手段として技術を使う、が正しい順番なのに、①②をすっとばして、何をしたいのかもわからない状態でいきなり③にとびついているから」
まずやりたいことありきなのである、あたりまえではあるが。次にどうすればできるのかを検討する。この順番を守らなければ、あれもこれもやりたいと目移りするだけで結局何一つできなかったり、大して重要でないことに時間をかけてしまったりする。
情報技術は手段だ。それが目的化してしまうから、わけのわからないことになる。情報技術を導入すれば魔法や万能薬のようにビジネスがうまくいくわけではない。
本書は最初にそのことを念押ししている。
ITでビジネスを成功させている多くの人々を見てみると、技術そのものの習得を優先するのではなく、技術で解決できることは何かをハッキリさせて効果的に技術を使いこなしている人が成功しているように思えます。
あっちこっちを掘るにしても、何を見付けたらうれしいかを知っていなければ、炭鉱と掘削機を使って「悦に入るだけ」となってしまうわけです。
炭鉱はこれまでのビジネス、掘削機がIT技術にあたる。見つけたいものの形や価値、利用方法、売り先を知らなければ、たとえダイヤモンド鉱山を掘りあてても宝の持ち腐れだ。さらにいえば、使い道を知っていてこそ、効果的なデータの集め方を決められるわけで、そうでなければ何をどういう形式で集めて、どう分析すればいいのかもわからない。
本書では「なにをしたいかハッキリさせたうえでデータを収集・分析してビジネスに役立てている」事例をいくつも集めたうえで、それらを一段高いところから俯瞰的に見た全体図を解説しようとしている。たとえばこんな具合。
IOTのフレームワークは「取得」「収集」「伝送」「分析」「可視化」「モデル化」「最適化」「制御」「フィードバック」から成り立つと考えられます。
これをふまえて、それぞれの業界でIOTを考えるときに踏むべき手順を示している。実際の内容はそれぞれの企業、業務、ビジネス上の問題次第であるから、この本ではそこまで踏みこむことはできない。ただ「こういう順番でこういうことを考えればいいよ」という提案を残しているだけで、ここだけ見たら、一冊の本にまとめるよりも一本の雑誌記事にまとめた方が読みやすい内容のように思える(実際に本書は雑誌掲載記事をもとに書かれているが)。現場の技術者としてはものたりないが、経営陣が読んで、なんらかの気づきがあることを期待する。そんなコンセプトの本だ。