新垣結衣主演ドラマ「逃げるは恥だが役に立つ」で、逃げることのネガティブイメージがちょっと薄くなってきた気がするけれど、いまだに「嫌なことでも3年間は我慢しろ」「逃げ出すのは弱いやつだ」などといった言い方も根強い。本書はそこをとりあげて「逃げることの大切さ」を精神科医の視点から書いている。
うつ病になる人が増えているというけれど、なにを言われたって気にならない性格の人はそもそもうつ病にならない。うつ病になるのは、まわりの人がああだこうだ好き勝手言うことを、まともに受け止めて、自分でも自分を責めてしまう真面目な人だ。自分を追いこめ、自分を打ち負かせるのは、究極的には自分しかいない。
本書はそんな人達向けに「逃げるのもひとつの手だよ、逃げるのはあなた自身を守ることであって、悪いことではないよ」と語りかける。具体的にはどうすれば良いのか、小ネタ集のようにまとめられていて読みやすい。ただし、ただ逃げるだけでは、逃げた先でも同じことをくり返してしまうだけなので、「学び」を大切にするよう呼びかけている。
一度逃げるのはよいのですが、その際に、
①そこから何を学んだか
②次はどうしようか
の二つを必ず考えるクセをつけましょう。反省と行動を伴わせることが大事です。
とくに悩みの原因第一位にあげられる対人関係では、「相手は変わらない。変えることはできないしその必要もない」と割りきって、相手への自分の接し方を変えることにエネルギーを使うことが良い、としている。
相手の「迷惑な性格」を解消するのはその人の課題であって、あなたの課題ではありません。相手を「改造」しようとするのは必ず徒労に終わるので、やらないに越したことはない。その分のエネルギーは「自分の気持ちの整理」や「自己変革」に向けてください。これが、「立ち向かう対象を変える」です。無駄なことはしないに限ります。
どうしてなのか、とくに近親者が迷惑な性格であれば、どうしてもその人に性格を変えてほしいがためにいろいろ行動しまう。それは、その人と気持ちよくつきあいたい、その人が変わってくれれば気持ちよくつきあえるのに、という願いがあるからだ。近親者や親戚とは、いろいろな場面で顔を合わさなければならない以上、気持ちよくつきあえる人々であると願うのはある意味あたり前ではある。
けれど、発想の転換で「近親者や親戚は、私が選んでつきあっているわけではない。たまたま血の繋がりがあってつきあっているだけ。だから気持ちよくつきあえない人が混じっていても仕方ないし、それ相応のつきあいだけにするしかない」と考えることもできる。そして、それ相応のつきあいを維持することにエネルギーを使う。これもまた「立ち向かう対象を変える」ということになるのだろう。
憂鬱な気分になったときに、この本を開いてみたい。気分をよくするためのヒントが、この本には隠れているかもしれない。