コーヒータイム

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現代社会に生きる女性たちの危なっかしさをえぐり出す『依存症の女たち』

ノンフィクションライターの衿野未矢さんの著書は、何冊か読んだことがある。いずれも現代社会に生きる女性たちが抱える問題をとりあげている。文章はしっかりしていながら説教臭さがまるでなく、取材対象の女性たちへのこまやかな観察、いつわりのない関心、彼女たちに寄り添おうとしながら感情的になりすぎない書き方が好きになった。

 

本書『依存症の女たち』は、タイトルのとおり、お酒、食べもの、セックス、買い物、ひいては携帯電話、海外旅行、趣味の会運営、リストカットなどに依存している女性たちにインタビューしたノンフィクションである。

このテーマは、ひとつまちがえれば「依存症になるのは心が弱いからだ」とか、「依存症に追いこんでしまうような現代社会に問題がある」という内容になりがちだけれど、本書にはそれがほとんどない。書かれているのは、女性たちとの出会いやインタビュー内容、著者の眼から見た彼女たちの現状、将来の可能性にとどまる。

たとえば、本書冒頭には「ケータイ依存症」のエミが登場する。まだスマホSNSが一般的でなく、携帯電話といえばガラケーで電話やメールが主流だった時代である。2019年の今でいえばさしあたり「スマホ依存症」「SNS依存症」になるだろう。

エミは編集者かライター志望で、就職活動のことを著者に相談するために電話でアポイントメントをとった。しかしその待ち合わせがすごい。

  • 待ち合わせ地点についての説明をろくに聞かずに「最寄駅についたら電話します」
  • 当日午後に会う約束をしながら電話してきて「携帯電話を家に忘れたから取りに帰ります、だから約束の時間をずらしてもいいですか」
  • 最寄駅についたら電話をしてきて「待ち合わせのホテルにどうやって行ったらいいですか」
  • やっと著者に会えたかと思うと携帯電話をテーブルに置きっぱなしで、メールや着信があればすぐに会話を中断してチェックする
  • 編集者かライターになるための就職活動の相談のはずが、なぜなりたいか動機があいまいで、「新聞、雑誌、本は読まない」「書くのは苦手」「雑貨が好きだから編集者かライターになりたいけど、雑貨屋の店員も悪くない」

こんなぐあいである。失礼なふるまいで著者のアドバイスする意欲を限りなく下げておきながら、本人は「ケータイのおかげで人とのネットワークができました」と言ってはばからないのだから、著者は呆れを通り越してエミに興味をもち、彼女はケータイ依存症になっているのではないかと綴る。

本書に登場するのはこういった女性たちだ。年齢は10代から40代と幅広い。どう考えても行動や判断基準がおかしなことになっているのに本人は「普通だと思いますよ」。現代社会のホラー小説かと思いたくなるが、全員実在しているのだから空恐ろしい。

 

依存的な女性たちに対して、感情的になりすぎず、かといって突き放しすぎない書き方ができるのは、著者自身がかつて買い物依存症に陥ったことがあるのと無関係ではないと思う。

買い物せずにはいられない衝動と、そこから脱出するためには問題の根源に目を向けなければならないことを、著者は身をもって知っている。また、ライターという職業上、買い物依存症に陥っていたときの心の動きや、そこから立ち直るプロセスの中で、自分が感じたことを言葉に置きかえる訓練も積んできたことだろう。

このため、著者が依存症についてつづる文章は、ひとことでいえば「大げさすぎず物足りなすぎず、ちょうどいい」。具体的な対策については、精神科医の著書を読むほうがいいが、依存症になった女性たちがなにを考え、どのように行動するかについて知りたければ、本書はよいとっかかりになると思う。