【読む前と読んだあとで変わったこと】
- 個性のある赤ちゃんを育てているのであって、「理想的な体重増加」「理想的な授乳間隔」をしてくれる空想上の赤子を育てているわけではない、多少ずれていても赤ちゃんが元気で機嫌がよければ一番、との心構えを胸に刻んだ。
- 普段と違う様子で泣いたりぐずったりしていたら、まず本書にある「気をつけなければならない」ことにあてはまるかどうかチェックし(たとえばそけい部の腫れなど)、症状がなければとりあえず深刻な状況ではないかもしれないと一息ついてから、ほかの原因を探すようになった。
松田道雄氏の『育児の百科』は、岩波文庫に収録され、いまも読み継がれている。
小児科医としての立場からたくさんの赤ちゃんや子どもを見てきた著者は、赤ちゃんが生まれた直後から、小学校に上がるまで、成長していく中でどんなことが起こって、どういう風に対応すればよいかをまとめた。
各章はそれぞれの月齢・年齢で区切られており、月齢・年齢ごとに子どもに通常見られること、両親に起こること、異常や変わったことなどのテーマについて、それぞれ数ページ程度の文章で記している。文章ごとに見出しと番号が振られているから、目次から読みたいところだけを探すことができるし、百科事典のように索引もついている。
「こういうことが起こってもこの範囲内ならば心配ない、こうなったら病院へ」
初めての育児にとまどう母親や父親には、正常かそうでないかを判断できるだけでも非常に助かる。本書はそのコツを抑えているから、長く読み継がれてきたのかもしれない。
たとえば母乳。初産婦では一週間から二週間母乳がうまくでないのは良くある、赤ちゃんの体重が生後一週間で200g以上減るか、二週間経っても出産時から増えなければミルクを考え始めると書かれている。母乳が出ないと焦る新米母親は、ここを読むだけでもずいぶん気が楽になるのではないかと思う。
子育てには、子どもの都合よりも、大人の都合で決めがちなことがある。授乳時間などはまさにそれで、睡眠不足になるから深夜の授乳はなるべく避けたいという母親も多いだろう。本書ではそれを「大人の都合である」とバッサリ切り捨て、できるだけ子どもの都合に寄り添おうとしている。文章から思いやりと優しさが感じとれる。
岩波文庫全三冊の分量がある本だから、すぐに全部読み通すことは難しい。百科事典のように、読みたいときに読みたい章を探すのがいちばんいい。手元にあれば安心できる本だ。