コーヒータイム -Learning Optimism-

本を読むということは、これまで自分のなかになかったものを取りこみ、育ててゆくこと。多読乱読、英語書や中国語書もときどき。

悩み相談で一番大切なのは、相手の答えをさぐること〜幡野広志『なんで僕に聞くんだろう。』

 

なんで僕に聞くんだろう。

なんで僕に聞くんだろう。

  • 作者:幡野 広志
  • 発売日: 2020/02/06
  • メディア: 単行本
 

もし私がだれかに悩み相談をされたら、幡野さんと同じように、相手の話を聞き、相手の答えを探ることをまずは真剣に行いたいと思った。背中を押すかどうかはその後決める。なぜなら相手の答えを探ることは、相手と同じ視線に立ち、相手のおかれた状況を想像する作業であり、相手に対等に接するために必要なことだから。

 

初めてCakesの連載「幡野広志の、なんで僕に聞くんだろう。」を知ったのは、Twitterのタイムラインに誰かのリツイートが流れてきたからだった。その時の相談内容は忘れてしまったけれど、「ガンで余命宣告を受けた写真家が人生相談に乗っている」というコンセプトを見て、写真家の人生相談なんて珍しいなぁ、こんなタイトルをつけるのだから本人も戸惑っているんだろうなぁ、と思ったことは覚えている。

相談内容と回答が印象に残ったのは、しばらくあと、タイムラインにCakes掲載情報がリツイートされてきたときだ。

そのときの相談内容に対する幡野さんの回答が素晴らしくて忘れられず、何度も読み返した。ちなみにこの相談内容と本書のラストを飾っており、人気だったことがうかがえる。ラストから二番目の相談内容と回答も、何度も読み返した。

 

なぜこれほど素晴らしいと感じるのだろう。

考えたあげく、写真家とかガン患者とか関係なく、幡野さんというひとりの人間が「同じ目線で」「相手のことを思いやる想像力をもって」答えるからかもしれないな、と思った。

私はなかなか他人に人生相談などできない性格だけれど、思い余って相談したときに、

「なんか上から目線のアドバイスだな。押しつけがましいな」

「それ、自分はそうだったかもしれないけど、私の状況考えてないじゃん。状況全然違うのに」

「真剣に考えてくれてないな。やっぱり他人事なんだな」

このうちどれか一つでも感じてしまったら、もうその人の回答を聞きたくなくなってしまうし、相談したくなくなる。

幡野さんの回答にはどれもあてはまらなかった。同じ目線で、軽々しく「分かるよ〜その気持ち」などの薄っぺらい言葉を言うことなく、真剣に考えて答えてくれている。そう感じた。だから素直に読める。

そう思っていると、後書きで幡野さんが悩み相談についての考え方を書いていた。

悩む人というのは悩んでいるのではない、不安なだけだ。

ほとんどの場合が悩みに対して答えを見つけている、ただその答えに自信がない。

だから悩み相談でいちばん大切なことは、相手の答えを探ることだ。

幡野さんはその答えを真剣に探りあててから、背中を押すかどうかを決めている。

相手の答えを探るという作業そのものが、相手と同じ視線に立ち、相手のおかれた状況を想像する作業だ。だから幡野さんの答えはとても素直に読めて、押しつけがましさをまったく感じない。当事者がどう感じるかはわからないけれど。

 

幡野さんの本業は写真家だから、この本にも何枚かのカラー写真が掲載されている。絶景のパノラマではなく、なにげない日常の一コマを撮影したものが多い。あえて選んでいるのかもしれない。点滴台を押した幡野さん自身を窓ガラスに映している写真、息子とおぼしき子どもと手を繋いでいる写真もある(顔が映らないようにうまく角度調整されている)。

親子二代にわたって写真を趣味にしている親戚がいるから、写真撮影、編集作業を見る機会はそれなりにあったが、私自身はあまり興味がない。正直言えば、写真の良し悪しもわからない。でも、一番最初のページにある、コーヒーにミルクを注ぐ写真は「なんか素敵だな」と思った。多分、きれいに写っているグラスの模様が気に入ったのだと思う。

 

それぞれの悩み相談の内容は、何度も読み返したくなるものの、当事者ではないからこのブログであまりしつこく紹介しない。でも、幡野さんの回答はとても素直に「なるほど」と思えるし、似たような悩みを抱えている人々にもきっと参考になるから、読んでみてきっと損はない。