パンローリング社は投資関係書籍の出版に定評がある。その中でも本書は「これからパンローリング社の投資書に手を出そうとする人向けの投資書」というおもしろい位置づけ。
実際読んでみると、パンローリング社のみならず、投資を始めようとするすべての人向けに書かれた入門書である。それも技術面ではなく、心構えについてより多く書かれている。
本書を含めて、何冊か投資関係の本を読んだことがあるけれど、お金や投資に対する考え方、投資を通してなにを達成したいか、そういったことを重要視する本はかなり多かったと思う。
現在では、金融市場取引のかなりの部分が、あらかじめコンピュータで構築しておいた数理モデルや人工知能によって行われているという。数理モデルをつくることができる人々はクオンツと呼ばれ、ウォール街のクオンツたちは想像もできないような巨万の富を手にしているという。
だが、そのクオンツたちが築いた数理モデルですら予測できないほどの乱高下を市場が示すことがある。なぜか。原因は、投資家心理。投資家たちがなんらかのきっかけでパニックになって売り、あるいは買いをたてつづけに行うと、数理モデルでは予測できないような動きになる。
投資家心理にくわしくなくても取引はできる。だが、投資をする自分自身の心理をよく把握しておかないといけない。著者によるとこうだ。
実をいうと、投資というものは、少なくとも、成功者、そして失敗者に見られる投資に対する思考と姿勢を知らなければ、最終的に損をするようにできているのです。
投資で長期的に勝つためには「心理」「手法」「資金管理」の3つを自力で構築しなければなりません。
投資家心理に惑わされることがあるから、実際に投資をする時点で、すでにいつ手仕舞うかを決めておくべきだという。投資というのはトータルで勝っていればいいのであって、小さな失敗は致命傷にさえならなければいい、というのが著者のスタンスだ。なるほど、一回の大損で軍資金を全部溶かしてしまう人もいるだろう。そういう人は二度と相場に戻ってくることはできない。
ようするに、全部自分で決めなければならないのだ。仕掛けや手仕舞いのタイミングも、どの程度なら損しても生活に支障ないかという損切りのタイミングも。せっかちな人に長期間保有は向かないかもしれないし、生活費を投資にまわすようなら長続きしない。なにより貴重な時間を浪費して、学ぶところはすくないかもしれない。
著者はよく投資を魚釣りにたとえるけれど、なるほど良いたとえだと思う。釣りたい魚の種類によって、釣り場、エサの種類、釣り糸の太さとたらし方などは全部変わってしまう。とくに「どの時点で釣りをやめて帰宅するか」を決めるのが大切。釣れないからといつまでも釣り場に居座るようだと、時間とエサと、ときには漁船の燃料代を無駄にするだけかもしれない。
損切りに絶対的なタイミングはありません。資金量や投資戦略、リスク許容度によって、タイミングが異なります。これは迷うことなく一貫して投資を執行するためにも、自力で見つけ出さなければならない事柄です。逆をいえば、損切りを自分で決められないような人は、投資をすべきではないのです。
いいかえれば「負け方」の習得は、修行期間で一番重要な項目といっても過言ではありません。中級に進むためには、自分なりの負け方を身につけて、いかに上手に負けるか、つまり「負け上手」になる必要があるのです。
最後に、著者が提唱する「投資を始めるにあたり答えるべき質問」をおいておく。
私はまだこのうちのどれにも答えることができない。多くの投資書を読みながら、答えを探しているさなかだ。
質問1 あなたは何のために積極投資をするのですか?
質問2 あなたはどのぐらいの期間、積極投資を続けるつもりですか?
質問3 最終的にいくらにまで増やそうと考えていますか?
質問4 どのようになったら売買を仕掛けますか?
質問5 どのようになったら売買を手仕舞いますか?
質問6 先ほど答えた投資期間と目標金額を達成させるために、いくらの資金をどのようなタイミングで投入していきますか?
質問7 1回の売買に、いくらの金額を投資しますか?
質問8 勝ったときも負けたときも平常心でいるためにどうしますか?