コーヒータイム -Learning Optimism-

本を読むということは、これまで自分のなかになかったものを取りこみ、育ててゆくこと。多読乱読、英語書や中国語書もときどき。

株式市場での栄光と破滅と、また栄光〜ニコラス・ダーバス『私は株で200万ドル儲けた』

1950年代、あるダンサーの個人投資家が株式トレードで200万ドル儲けた。彼は自分自身の株式投資のやり方や、200万ドル儲けるまでのできごとを本にまとめた。それが本書である。

本書は、株式投資の教科書として広く読まれているというけれど、私が読んだところ、株式投資家だけではなく、それ以外の人々にとってもおもしろい読み物だ思う。まったくの初心者から数百万ドルを動かす株式トレーダーになるまでのできごとはドラマチックで、株式は会社の実名入りで登場し、失敗や挫折も率直に書かれているので、株式投資に興味がない人であっても、手に汗握る人生物語として充分楽しめる。

 

著者はダンサーが本業で、ある日、トロントのナイトクラブからダンサーとしての報酬を株券で支払いたいと申し出され、ビギナーズラックで儲けたのをきっかけに株式投資にのめりこんだ。

「株は上がったり下がったりするものだ」という程度の知識しかなかった著者は、最初はナイトクラブで出会った「信頼できる秘密情報を持った金持ちたち」におすすめの銘柄を聞き回り、次にニュースレターで「必ず儲かる」と書かれている銘柄に手を出し、ウォール街のブローカーが「絶対安全です」とまことしやかに説明する銘柄を買った。この方法では絶対に儲からないーーそれに気づくまで相当の時間がかかった、と著者本人は書いている。

自分では気づかなかったが、わたしはすでに小口投資家が陥る大きな落とし穴ーーつまり、「いつ」の段階で取引に参加すべきかという解決不可能に近い問題にぶつかっていたのだ。買った直後に株価が下落するというのは、素人が最も戸惑いを感じることのひとつだ。金融界の予想屋が特定銘柄の買いを小口投資家に推奨するのは、彼らのような玄人筋がもっと早い時期に内部情報に基づいて買った株を売る場合だという事実に気づいたのは、何年もたってからのことだった。

……もし私が株式売買に手を出しても、きっと著名投資家はどの銘柄を買っているのか気になって仕方ないだろうし、著名投資家のブログやらニュースレターを読みあさるだろう。著者の気持ちはとてもよくわかる。

これ以外にも著者は自分がやらかした(初心者にありがちな)失敗を、具体的な銘柄の名前、取引数、利益と損失を出しながら説明している。利食いに焦るあまり、数週間余分にもっていればもっと儲かったはずの株式を手放したり、株式売買の回数が多すぎてブローカーに支払う手数料が多くなったり、そんな失敗だ。

著者は何度も株式売買をして、損を出してようやく、自分のやり方が間違っていたのではないかと思い始めた。そこで著者はちゃんと業界研究を行い、会社の業績報告書の読み方を勉強して、「信頼すべき統計に基づいた完全に客観的な投資」を行いーー大損した。

破産の危機に瀕した著者は、打ちのめされ、自暴自棄になりながらも、土地を担保に借りたお金を株式市場につぎ込んでいたから、損を取り戻して土地を守るために、必死で上がりそうな株式を探してトレードした。なんとか立ち直った著者は「業界展望や格付け、株価収益率などといったものにどれほどの価値があるのか。上がりそうな株式を探すべきだ」という結論に至る。会社研究をやめ、噂話や秘密情報といったものをシャットアウトして、株式価格と出来高のみに従って株式売買を行うと決めている。

この時期の苦しみが、著者が「ボックス理論」という株価上下についての独自の理論を編み出す第一歩となった。またそれにとどまらず、株式投資をするにあたってのスタイルを整理するきっかけにもなった。

株価というのはほぼ常に高値と安値の間を行き来している。この上下変動を取り囲む領域がフレーム、つまりは「ボックス」だ。このボックスが、わたしには非常にはっきり見えるようになった。

一連の決断をしたあと、わたしはくつろいで株式市場における目標をもう一度明確に決めることにした。

 一.正しい銘柄の選定

 二.正しいタイミングの判定

 三.損は少なく

 四.利益は大きく

使える武器を検討した。

 一.価格と出来高

 二.ボックス理論

 三.買いは自動的なストップ・オーダー(仕掛けの逆指値注文)

 四.売りはストップロス・オーダー(手仕舞いの逆指値注文)

これで著者の株式投資がうまくいくようになったーーわけではなく、結局利益と損失を繰り返しながら徐々に資産を増やしていったのだが、だんだんと株式市場の上下に一喜一憂しなくなり、自分の投資スタイルを守れるようになったという話が続く。

本書は「株式投資の教科書」と呼ばれているものの、中身は著者がうまくいくまでのドキュメンタリーのようなものであるから、ここからなにを学ぶかは読者次第。

投資環境が違っても、やることの原理原則はそんなに変わらない。経験を積み、自分の投資方法を確立させ、まわりをとびかう情報に惑わされることなくそれに従い、うまくいかなかったらさっさと損切りすることだ。……ただし、大金がからむとこの原理原則などカンタンに忘れ去ってしまうから、気をつけなければならない。私が本書より学んだのは、こういうことだ。