コーヒータイム -Learning Optimism-

本を読むということは、これまで自分のなかになかったものを取りこみ、育ててゆくこと。多読乱読、英語書や中国語書もときどき。

新型コロナについて自分で考え始めるために〜峰宗太郎,山中浩之『新型コロナとワクチン 知らないと不都合な真実』

 

とても楽しみにしていて、発売日当日早朝に電子書籍をポチった本。

本書は「日経ビジネス電子版」の「編集Yの 話が長くてすみません」というコラムで取り上げた全6回の連載を大幅に加筆したもの。

編集Yの「話が長くてすみません」:日経ビジネス電子版

このコラムは連載当時に何度も読んだ。専門家と編集者の対談形式をとっており、新型コロナウイルスが猛威を振るう今、そもそも新型コロナウイルス、正式名称「SARSCoV─2」とはなにかという基本知識から、PCR検査の感度・特異度、ワクチンの種類、「ワクチンが効く」とはなにか、日本が採るべき戦略までわかりやすく解説しており、「これだよ今知りたい情報は!!」と喜んだ。おかげでファイザーと中国研究機関が相次いでワクチン実用化を発表したときは、すぐに連載を読み直して、ふむふむ核酸ワクチンとウイルスベクターワクチンね、と復習していた。

著者の峰宗太郎先生はワシントン在住で、分子ウイルス学、免疫学研究者、病理診断医でもある。Twitterでは赤ちゃんのキャラで「ばぶ先生」と親しまれ、マシュマロで気軽に質問に応えてくれるお茶目な一面も。そんなばぶ先生のおすすめ本(通称「ばぶっく」)は数多けれど、ご本人の著作はほとんどなく、その意味でも楽しみにしていた。

私自身は、生命科学についてほとんど学んだことがない。高校は生物を選択せず、大学受験前の3ヶ月で泣く泣く生物を集中学習(後期試験で必須だったから)。入学後に生命科学基礎の授業があったものの半年のみ。生物実験を1回しただけ。

このように根性なし&ど素人だが、本書の内容はするする理解できた。嬉しい。

 

本書は連載当時の内容にさらに解説を加えたり、最新のワクチン開発状況などを加えたものになっている。連載当時、わたしが興味を惹かれたのはワクチンによる免疫向上のところだったが、もちろんしっかり載っている。

編集Y:で、ワクチンというのは、自然、液性、細胞性免疫を、何ていうのかな、どういう割合で刺激して、効果を得ているんでしょう。

峰:……それは、もう1度がっつり時間を取って、しっかり講義しないといけないくらいの大きなテーマなんですけど、実は、ぶっちゃけてしまうと、自然免疫と細胞性免疫の効果を、量として明確に計測できる技術って、今のところ存在しないんですよ。

編集Y:えー?

峰:事実です。

編集Y:だって、効果測定できないなら効くか効かないかって証明できなくないですか。

峰:液性免疫だけは計測できます。逆の言い方をすると、しっかりと妥当な状態で計測できるのは液性免疫だけです。

なんと。計測できないとはなんぞ?

そう思って読んでみると、液性免疫(体液中のウイルスを攻撃する免疫機能)だけは抗体の増加を検査できるが、自然免疫(ウイルス特異的ではなくとりあえず異物に反応する免疫機能)、細胞性免疫(感染した細胞を破壊する免疫機能)は計測できないらしい。マスコミが3ヶ月で抗体が減るといっているのは液性免疫の話だけ。なんだそりゃ。液性免疫なんて単語、峰先生の記事以外読んだ覚えはないぞ。

いろいろ知りつつ、ツッコミ入れつつ読むのは楽しい。

 

峰先生がとても心配しているのは、開発されたワクチンがもしも副反応を起こしたら、日本社会が「ワクチン害悪論」に染まってしまい、せっかく開発された新型コロナのワクチンのみならず、ほかのワクチン接種にも反対意見が強くなってしまうのではないかということ。

ワクチンの臨床試験に参加した者が、高熱や一時的な顔面麻痺などの副反応を起こしたというネット記事もすでにちらほら見る。自分が注射されたのがワクチンかプラセボ(偽薬)なのか知らされておらず、症状の激しさからワクチンを注射されたのだろうと推測しているにすぎない人もいるようだが。

新型コロナウイルスのワクチンは最新技術を利用して猛スピードで開発されているが、逆にいえば、前例がなく、実験に時間をかけていない。

峰:実は研究が猛烈に進む反作用といいますか、研究者・プロの間でも玉石混淆の情報があふれかえっていて、インフォデミック(誤った情報の拡散による社会的被害の発生)が起きています。ワクチンの開発も「アウトブレイクパラダイム」という超速スキームで進められていて、動物実験の結果が出る前に人間に投与したり、投与する容量を安全性と効果の見定めのために段階的に増やしていくところを、すっ飛ばしたりしています。5~6年かかるところを1年以内でやろうとすれば、倫理観、安全性がトレードオフにならざるを得ません。

編集Y:何が何でも特効薬を、ワクチンを、と考えると、別のリスクを抱え込む恐れが出てくる、ということですね。

実際、生命科学ど素人のわたしは、身体の細胞のどこか(どこ?)にウイルスmRNA(メッセンジャーリボ核酸、ウイルスの遺伝情報搭載)を打ちこんでウイルスタンパク質を生産させ、そのタンパク質に免疫機能を反応させて抗体を獲得するという核酸ワクチンの仕組みを聞いて、二の足を踏んでいる。

ウイルスタンパク質が合成されるのはmRNAが存在する間だけ? ずっとウイルスタンパク質を生産し続けていたり、細胞本来のDNAを傷つけたりしないよね?(エイズウイルスが持つ逆転写酵素でもなければこんなことは起こらないと思うけれど)

わたしは人生半ば近いからいいとして、細胞分裂と新陳代謝がさかんな子どもに核酸ワクチン打っていいの?(どのみちまだ子どもへの接種は承認されていないようだが)

漠然とした不安が、うたかたのように浮かんでは消える。

わたしはワクチン大賛成、麻疹風疹水疱瘡破傷風百日咳結核狂犬病おたふく風邪天然痘……などなど、書くだけで鳥肌立つような感染症に怯えることなく暮らせるようにしてくれたワクチンはもっとも偉大な発明のひとつだと思っているが、さすがに率先して核酸ワクチンを打つ気にはなれない。たとえ本書でもとりあげられているように、ワクチンを接種した人々の、いわば人体実験結果にフリーライドすることになっても。それならマスク、うがい、手洗い、3密回避を地道に続けて、不活性ワクチンを待ったほうがまだいい気がする。もともと引きこもり気味だからそれほど苦でもない。

そんなことを考えながら読み進めていくと、がっつりぶん殴られる。中でもこれは名言。

峰:Yさん、どこまでも基本から考えること。自分の思い込みからくる無自覚の前提を置かないこと。これが重要です。

峰:Yさん、大事なのは知識じゃないんです。それは聞けばいい。調べればいい。大事なのは考え方です。サイエンスを扱うならば、因果関係のショートカットはいけません。前後関係や相関関係と因果関係を混同してもいけません。

 

この本を最後まで読むと、情報リテラシー、自分で考えることの大切さが追加されていた。

編集Y:お話から敷衍すると、「これだけの読書を通してあなたは何を学んだか」といったら、要するに「自分の頭で考えないといつまでたっても安心はできない」ということですよね。そして、それに気付いたらこの本を読み終えた後、真っ先にするべきことはなにか、と。

あまりにタイムリーで頭がくらくらした。つい昨日、かなり厳しい叱責を受けたばかりだから。

「基本をふまえた理解ができていない」

「立ち位置=期待されている役割がわかっていない」

「やり方を変えないのならいまの仕事は向いていない」

ショックのあまり休憩時間にやけ食いしたが、どうして叱られたのかよくよく考えてみると、結局【理解が足りていないから、難しそうな専門業務を後回しにして、楽そうだけれども自分がやらなくてもいい業務に手を出し、しかも中途半端なところで行き詰まった】のを見抜かれたのだろうな、と。

理解が足りていないのが根幹で、それは【自分の頭で考えていない、深掘りが足りないから、話すことに説得力がない】ことにつながった。

だから自分の頭で考え続けなければならない。5年後には、今日わたしを叱責した人と同じくらいの深さの理解度と業務遂行能力を身につけたい。

 

とりあえずは、この本を読み終えたあと、核酸ワクチンについてわたしが漠然ともっている不安が、理にかなっているのか、ただの思いこみなのか、さらに深掘りしようと思う。

ちなみに経験上、こういうぼんやりした不安は9割方ただの情報不足によるもので、充分情報が集まったらいつのまにか不安は消えていることが多いが、今回はどちらだろう。楽しみ。